飼育員になりたい君へ

動物園の飼育員になりたい君へ

とある動物園で飼育員をしています。いつの日か動物園で飼育員として働きたいと思っている人に向けて書きます。

群れ飼育を因数分解して、整理してみた

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本日は「群れ飼育は、なんだかんだ難しく感じるけど、動物にとってはいいことだから一生懸命食らいつこう」という話をします。

 

群れで飼育する動物とはどのような動物がいるイメージですかね?

ニホンザルチンパンジーなどのサルの仲間は群れ飼育をする場合が多いですし、シカの仲間であったり、最近ではゾウも群れで飼育する園館が増えてきました。

 

群れ飼育は、環境エンリッチメントの中で「社会的エンリッチメント」の一つの選択肢です。

 

その動物の野生下での生態に近づける試みとして、群れで暮らす動物は群れを作って飼育する。

 

その動物がもつ社会的行動を引き出すことになり、豊かな生活を実現することに繋がります。

 

もちろん、群れで飼育する場合は、気をつけなければ逆に動物を不幸を招いてしまう場合もあるんですね。

 

「群れ」というものの構造から飼育作業を含めて、考えていきたいと思います。

 

 

 

 

群れ飼育

 群れといっても動物がごちゃごちゃにいれば群れになるかというと、そういうわけでもありません。

 

「群れ」の種類と構成要素をまずは整理。

 

群れ飼育の種類

群れ飼育を含めて、放飼場に複数動物がいるパターンは3つです。

群れ飼育

野生環境で群れを構成する動物種を同じ飼育場所で複数頭飼育する方法

混合飼育

野生環境において生息域が重なる種同士や類似した生態環境に生息する種同士を、同じ飼育場所で飼育する方法

 

 ごちゃごちゃ飼育(勝手に名付けました)

社会的エンリッチメントとして、同種でも、野生環境で生息域が重なる動物でもない、動物種同士を一緒に飼育する方法

 

「群れ飼育」と「混合飼育」はシンプルな構造なのでよしとして、ごちゃごちゃ飼育だけ補足を。

 

ごちゃごちゃ飼育はそれぞれの園館の考えで取り組む園もあれば取り組まない園もあります。

 

どのような動物の組み合わせかもバラバラです。

 

来園者が「ごちゃごちゃ飼育」を見て、動物の本来の生活からかけ離れたものを理解をしてしまい、教育的な観点から問題がある、と聞いたことがあります。

 

個人的に動物の幸せ第一主義の私としては「群れ飼育」と「混合飼育」、もしくは両方取り入れた飼育方法が理想的ではありますが、園の事情でその2つの選択が取れない場合、飼育している動物の生活がより豊かになるのであればごちゃごちゃ飼育も悪くないと考えます。

 

誤解が生まれないように展示物などで必死こいて言い訳すればそこそこ理解してもらえるのではないかなと。

 

 

本来群れで暮らす動物を飼育するのであれば

 

群れ・混合>群れ>混合>ごちゃごちゃ>単独

 

という順番になるのではないかなと考えます。

 

群れで暮らす動物が単独生活するのは、やはり選択肢としてなかなか厳しい。

 

しかし、劣悪な環境で飼育されていた動物を緊急保護のような形で単独飼育で受け入れることになったとしたら、少なくとも今までより幸せになるのでそれは一つの選択です。

 

そうなったら担当飼育員が精一杯動物を幸せにするために一生懸命やれるだけのことをすればいいだけです。

 

ファイヤーしましょう。

 

 

追加でひとつ。

どの動物も野生環境で「群れ」で暮らしているわけではないんですね。

 

そういった動物は単独で飼育してあげるのがその動物の野生環境での生活を再現することにつながるので、単独で飼育します。

 

たまに、『ひとりでかわいそう』っと来園者の方が言っているのを聞きますが、そういった生態で、そういった意図があって単独で飼育していることが伝わるような看板などを設置する必要があります。

 

ただ、混合飼育は単独性の動物であろうと実現することができるので、その動物にとってどのように飼育方法を変化させることができるか、を常に考えてチャレンジしていきましょう。

 

また、野生環境で単独で暮らすオランウータンをヨーロッパの動物園では群れで飼育していました。

 

あんなゴリゴリのオスとメスと仔が一緒の空間(もちろん大分ひろい空間)にいることができるのは、日本ではなかなかお目にかかることができない光景で衝撃です。

 

しかもいくつも動物園を見て回ったら多くの動物園でオランウータンの群れ飼育をしているのです。

 

オランウータンに関しては類人猿として、単独での飼育より群れでの飼育のほうがメリットが大きいと判断しているのでしょう。

 

あまり固定概念にとらわれてしまったらだめですね。

 

先日ニュースでコロラド州にあるデンバー動物園で母親が急死した仔のスマトラオランウータンを血縁関係は無いがオスが子育てしている記事を見ました。

 

karapaia.com

 

ケースバイケースで最善の手は変わっていくので、臨機応変に動物の幸せ第一で取り組んでいきたいものです。

 

 

群れの構成要素

続いて群れ飼育をする上で、その群れの構成を見ていきましょう。

 

年齢

群れで複数頭飼育すると、仔どもから高齢固体までをさまざまな年齢の個体を飼育することになります。

 

個体の成長ステージはざっくり以下の3つ。

 

成長期

維持期

高齢期

 

成長期は成長していくために給餌量を増やす。高齢期は健康のために給餌量に配慮が必要。

 

では、成長個体と高齢固体が両方いる群れの場合はどうしましょう?このジレンマは非常に悩ましいものです。

 

群れ全体の給餌は成長期に合わせつつ、高齢期個体には特別メニューを給餌する、採食の時だけ高齢固体を隔離する、冬など代謝コストがかかる時期だけ高齢固体を隔離するなどの選択肢が必要となります。

 

ケースバイケースとなりますので、その都度脳みそから煙が出るくらい考えましょう。

 

オスメス比

群れ飼育をしていて生まれてくる仔は基本的にオスなのかメスなのかは半分半分の確率であると思います。

 

が、面白いもので多くはどちらかの性別に偏るんですね。

 

動物種によってはその環境(食べ物や群れの順位)でオスメスを生み分けている種もいるようです。

 

偏るとなかなか頭を悩まします。

 

しかし、こればかりは生まれてきてからでないとオスメスはわからないので、ほかの園館に動物を移動させるなどを柔軟に対応していくしかありません。

 

順位

ニホンザルチンパンジーなどであるのですが、動物によっては順位というものがあり、その順位にあわせた飼育方法が必要になります。

 

例えば、餌を与える場合、シンプルに順位が高い個体がたくさん食べて、順位の低い個体は食べれる量が少なくなるんですね。

 

ジャイアン(優位)からのび太(劣位)はお菓子を奪えない構図です。

 

っというものだというのを理解したうえで、ジャイアン(優位)の目が届かない範囲まで餌をばらまく、採食難易度を上げてジャイアン(優位)も採食に時間がかかるので他の個体に干渉できない、といった工夫を行い、のび太(劣位)が十分に食べられる環境を実現するしかありません。

 

ここも飼育員としての腕の見せ所です。

 

 

本日はここまで。

続きもつらつら書いていたら文字数がとても多くなってしまいましたのでひと区切りしておきます。

次回は群れ飼育での飼育作業を具体的に見ていったら、最終的にやっぱり事故対策に行きついた話をします。

 

お楽しみに