動物園が行う環境教育の全体像
本日は「動物園の環境教育の全体像を整理するためにめっちゃググってなんとかした」という内容を記していきます。
動物園の一つの役割として、「教育・環境教育」があります。
正直に告白すると、私は学生時代は部活は好きで猛然とやっていましたが、勉強を全くやらない不真面目な学生でした。先生に対しても、「こいつ随分偉そうで生意気だな」と先生に思われていたのではなく、私が思っている生意気な学生でした。そんな自分が教育の要素があるような仕事をするとは夢にも思っていませんでした。
飼育員は、動物たちと真剣に向き合い彼らを「幸せにする」と同時に、その飼育している動物たちから得た知見や経験を活かしながら自然環境について伝える「環境教育」に取り組むことができます。
この分野に関しても、自分の動物園でキッカケを提供してくれる先輩はいましたが、手取り足取り教えてくれる人はいませんでした。我流です。
いろいろな書籍を読破し、講習会に参加して知識を得て、自分で企画を立ち上げチャレンジして様々な経験をしてきました。正直まだまだ勉強不足だなぁ、と感じる日々ではございます。
が、とりあえずここまで集めてきた情報を点検する意味も込めて一つ一つ整理していきたいと思います。
まずは、
環境教育って何なの?
という概念的なテーマをお届けします。
環境教育って何なの?
環境教育というのは「地球や自然の資源の有限さや大切さに気づき、その保存と永続的な利用のために行動できる人を育てること」ということになります。
具体的には
自然環境(野生動物を含む)のこと知ってもらう
自然環境(野生動物を含む)のことを考えてもらう
自然環境(野生動物を含む)に対して自分ができることを行動する人を育む
簡潔にまとめると「知り、考え、行動する人を育む」のが環境教育です。
知り、という部分でガイドスキルやインタープリテーションスキルが
考え、という部分でファシリテーションスキルが
行動する、という部分で環境保全活動が とそれぞれの要素として入ってきます。
それぞれの要素は次回以降に記すとして、まずは全体像を把握していきましょう。
SDGsと ESDとEE
私がカラーバズ効果でよく耳にするだけかもしれませんが、SDGsという言葉をチラホラ耳にする機会が多くなりました。SDGsだけではなく、関係する用語としてはESDやEEという言葉もあります。
それぞれ
SDGs(持続可能な開発目標)
ESD(持続可能な開発のための教育)
EE(環境教育)
という意味です。
そしてそれぞれの関係を図で表してみると
といった整理となります。少し複雑ですし、明確な整理ができない部分もあります。
個人的には、以前のお話しした目的と目標の考えで整理して、「目的であるSDGsのために、ESDという目標を、EEという方法を使って達成していく」という風に把握しています。
ではそれぞれを見ていきましょう。
SDGs(持続可能な開発目標)
SDGsとは、持続可能な開発目標です。これは地球環境を維持していくために、資源を消費し尽くすのではなく、持続的な形で利用していくことを目的としています。SDGsという目的を達成するための目標が17個あり
17の持続可能な開発目標
目標1. あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる 目標2. 飢餓を終わらせ、食糧安全保障および栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する 目標3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する 目標4. すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し生涯学習の機会を促進する 目標5. ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う 目標6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する 目標7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する 目標8. 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する 目標9. 強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る 目標10. 各国内および各国間の不平等を是正する 目標11. 包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する 目標12. 持続可能な生産消費形態を確保する 目標13. 気候変動及びその影響を軽減するためにの緊急対策を講じる 目標14. 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する 目標15. 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、並びに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する 目標16. 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する 目標17. 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する 引用:国際連合広報センター
ということをすべて達成する未来をみんなで作り上げましょう、と国連が設定しているのがSDGsです。さらにこの17の目標は抽象的なので169のターゲット(具体的なスモールゴール)を設定し、230の指数によって評価します。
なかなか壮大でついていくのが大変ですね。まぁ、知識として把握しておけば大丈夫です。私の動物園の他の飼育員でこのあたりをまともに把握している人はほぼいませんからご安心を。
しかし、動物園ではどのような分野でどう関われるか、というのは把握していることで、これからの動物園の未来が多少変わっていくのではないかな、と思うので少しづつ勉強しています。
続いてESDについてです。
ESD(持続可能な開発のための教育)
考え方としてESDは、SDGsの17の目標(169のターゲット)の中に含まれる概念である、ということ整理でいいのではないでしょうかね。
さらにESDを因数分解してみると
引用: 文部科学省
といった要素をテーマしてESDを取り組み、それぞれに対して理解を深めることがSDGsに繋がる。そして、ESDを推進していく方法としてEE(環境教育)がある、という整理です。
環境学習や生物多様性、国際理解あたりのキーワードが動物園とは関わりがありそうですね。なかなか階層があって、複雑です。この記事を書きながらたくさんググりました笑
ここまでの概念を把握したうえで、ようやく冒頭に紹介した私たちが行う環境教育につながっていきます。マクロの視点でSDGSとESDを把握しながら、ミクロのEEに取り組む。そして、このEEもその施設や団体によって取り扱う内容が変わります。
動物園で行う環境教育
動物園は野生動物を見てもらう場所です。ですので当然、野生動物に関することを取り扱う環境教育を行います。
つまり、野生動物のことを中心に、野生動物が暮らす環境や現状といったテーマを「知り、考え、行動する人を育む」というのが動物園で行う環境教育です。
具体的には、
動物ガイドで野生動物の生態や現状を伝える
イベントで野生動物の生態や現状を伝える
イベントで身近な野生動物たちが暮らす環境を伝える
といったことに取り組むことになります。
また、これからの動物園として、
実際に野生動物たちの生息環境を守る環境保全活動を実施
動物園に来た人たちにも環境保全活動に参加してもらう
という視点や取り組みも必要となります。
動物園の中だけで完結するのではなく、実際に自然環境とつながるという試みです。動物園には世界中の動物たちがいます。その動物たちそれぞれに対して動物園として何ができるか、動物園はいま大きく変わらなければいけない時代に突入しています。
知の種類
再び概念的な話になってしまいますが、「知る」にも種類があるというお話をしておきます。
知には大きく
という2の種類があります。
形式知というのは、「言葉や文章、絵、数値などで表現が可能。他人にも伝達可能な知識」です。暗黙知というのは「具体的な形の表現にして他人に伝えることが難しく、他人に伝達が困難なもの」です。
この形式知による理解と暗黙知による理解の双方が動物園の環境教育の中では必要となります。
「知り、考え、行動する」と進んでいく原動力として形式知だけでは不十分です。「知動」という言葉はありません。「感動」というのは暗黙知の先にあります。自然や動物に対する畏敬の念(自然などを前にして慎み深い心持になること)といった感情が人の心を動かすことになります。
動物園の飼育員をしていると、「動物ってスゲー」と思う機会ってたくさんあるんですよね。それはつまり暗黙知です。「そんなことできるの?」とか「ウォー恐えー」みたいなことはたくさんあります。
そういった暗黙知として自然を、動物を捉えてもらうためにはどうすればいいのか?このあたりも私もまだまだ模索中ではございます。さて、どんな方法があるのでしょうかね?じっくり探していきたいと思います。
おわりに
環境教育は個人的には非常に大切だと思いますし、やっていて楽しく好きな分野です。
動物飼育ばかり行っていると、どうしても動物園の内側にこもりがちになります。仕事も忙しく、環境教育になかなか手が出ない、時間が作れないということになりがちです。
しかし、動物園で動物たちを飼育するというのは何のためなのか?動物たちがいるからこそできることは何なのか?
といったこと考えていくと、一つの答えが動物園の「環境教育」につながっていくのではないでしょうか。
動物園にはまだまだ可能性があります。そういった可能性を探求するために日夜考え、チャレンジしていきたいと思います。