飼育員になりたい君へ

動物園の飼育員になりたい君へ

とある動物園で飼育員をしています。いつの日か動物園で飼育員として働きたいと思っている人に向けて書きます。

動物園で伝えるインタープリテーション②

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本日は「インタープリテーションを動物園でどのように使うことができるかを考察してみた」といった内容を記していきます。

 

インタープリテーションって動物園で飼育員をしているだけでは出会うことがないワードです。僕が出会ったきっかけは、自然観察会を担当するようになってからでした。

 

最初は「この花の名前は・・・」とか「この鳥は○○って名前で・・・」のように主に種名と生態を紹介するようなイベントでした。そのために、得意でもない暗記にチャレンジするため図鑑を開いては頭を悩ませる日々です。

 

終いには「この木は○○って木で・・・」とやっていると、参加者から「じゃぁこの木は?」「これは?」「あれは?」・・・とクイズに僕一人で答えるような流れになってしまいました。当然すべてがわかるはずもなく「なんですかねぇ〜、自分で調べるのもたのしいですよー」なんて逃げてみたり。

 

「あれ、こんなことがやりたいんだっけ?ぜんぜん楽しくないぞ」と疑問に思ったもののどうしたら良いのか分かりませんでした。

 

これじゃダメだ!と藁を掴む思いでさまざまな講習会に参加するようになりました。自然観察指導員、プロジェクトワイルド、ネイチャーゲーム・・・そういった学びの場に赴く中で出会ったのがインタープリテーションとファシリテーションです。

 

基本的にはイベントで使う予定で学びを開始したのですが、ふと日常で行なっているガイドなどにも活用できることがたくさんあることに気がつきました。

 

動物園でどのようにインタープリテーションを活用していけるか、を実際に取組んだことを交えながら考察していきたいと思います。

 

 

 



動物園でのインタープリテーションのテーマ

もちろんテーマは野生動物です。その野生動物たちの何を伝えるのかというと

 

種名や生態

生態系での役割・繋がり

進化・適応

といったことを伝えていきます。

 

これらのことをただお話で伝えるだけではなく、参加者によりわかりやすく行なうために意識することがあります。それは参加者の五感に働きかけるということです。



インタープリテーションで五感を刺激

人間には刺激を受け取るために感覚器としての5感があります。視覚・触覚・嗅覚・聴覚・味覚です。味覚はなかなか難しいのでその他の4つの感覚をメインに考えて行きます。

 

視覚

人間はおよそ8割の情報を視覚から獲得します。動物園でも動物を観てもらう、というのは視覚情報ですね。この視覚情報をプレーンの状態から少し工夫を加えて学びを促していきます。

 

例1デッサン

たまに動物のことをデッサンするイベントを行なったりします。なんのためにデッサンをするのか?別にきれいなデッサンを描くためではありません。その対象を「よく観る」為にデッサンを行ないます。

 

デッサンを描くために情報を収集する時にこそ、漫然と観察するだけでは得ることができない情報を獲得することができます。参加者が自分で「見つける」ことができるのです。この自分で「見つける」というのが非常に大切となります。

 

実施者が参加者に対して「ここはこうなっているんですよ」と伝えるよりも、参加者が「ん?これなんだ?」と疑問を持った上で、実施者から「それは○○なんですよ」と伝えると「なるほどねぇ」にすんなり繋がっていきます。腹落ちするということですね。興味の種が参加者の中にあることで学びが深まっていきます。

 

例2サイレントガイド

デッサンをするには準備が・・・というときは、僕は「サイレントガイド」を行なったりします。スケッチブックに「この動物の○○(例えば前脚に、など)に注目!」と書き、参加者に自分で探してもらいます。この後はデッサンと同じ流れで大丈夫です。



上記二つの方法の本質は「参加者に主体的に取組んでもらう」という部分です。参加者の中で出てきた疑問を、参加者発信で実施者が「受け取り」話が進んでいきます。個人的な好みになってしまいますが、この「受け」ができるかが実施者の実力が試され、イベントの満足度に大きくかかわる部分だと思っています。どのような流れになっても大丈夫、と思えるために勉強したり、引き出しを増やしていくということを日々コツコツと行なっています。

 

視覚 お助けアイテム

視覚に関してさらに道具を使った工夫というのもあります。わかりやすいのは双眼鏡です。双眼鏡を使って参加者に動物のことを観察してもらうと、肉眼では発見できないようなことを見つけるてもらうことができます。双眼鏡は遠くを見ますが、逆に虫眼鏡で動物の派生物(羽根や角など)を観察してもらう、という方法もあります。お金があればフィールドスコープで30倍や40倍ズームの世界を観るのも面白いですね。

 

こういった一工夫を取り入れることで、動物観察に彩りが出てきて、より楽しんでもらいながら動物のことを伝えることができます。



触覚

触覚も取り入れ易い分野です。触って感じてもらうというのは非常に評判が良いです。何か触ってもらえる物はないか?と常に探しています。派生物が手に入ればすぐにでも実施することができ、それらをより魅力的に感じてもらう為の工夫を加えて学びを促していきます。

 

例1 箱の中身はなんだろな?

そうです。バラエティ番組などで古くから行なわれている方法です。袋でも良いですね。箱の中に派生物を入れる事で視覚情報が無くなり、触覚に集中することになります。ドキドキ感とわくわく感の絶妙なバランスがとてもいいです。

 

例2 目かくしタッチ

少し高度な技になりますが、参加者にアイマスクをしてもらい、その状態で派生物を触ってもらったり、歩いてもらう方法もあります。歩いてもらう場合はある程度リスクがあるので危険性を理解した上で実施しましょう。例えばその動物が湿地帯に暮らしているのであれば湿地帯を再現した踏み心地の場所を作り、参加者に歩いてもらうとその動物が暮らしている環境を疑似体験してもらうことができます。

 

例3 ゴム手袋

ゴム手袋を使って普段では触りたくないような物を触るのも面白いです。例えば動物の便を触る機会って一生の中でそうない機会じゃないですか?実際にやってみて、最初はいやがっていた参加者もある程度為たら馴れ始めて、ずんずん触っていきます。結構面白いと思いますね。



嗅覚

嗅覚も面白いですね。野生動物の体臭であったり、トリッキーな物として動物の便を使う方法もあります。匂いは結構当てるのが難しくなかなか盛り上がります。

 

例1 箱の中身はなんだろな?

触覚で使用することもできますし、嗅覚でも箱は使用可能です。僕が使ったことがあるものとして、草食獣用のペレットを箱の中に隠して、匂いを嗅いでもらったことがあります。草の匂いがするのを感じてもらいたかったのですが、以外と難しいようで結構苦戦していました。箱から出した後に実物を手に取り、再び匂いを嗅いでもらうとみんなで「確かに草の匂いだ」と納得してもらうことができます。



聴覚

聴覚は動物たちの鳴き声や自然音などを取り扱っていきます。音を聞く、だけではなく聞いてから○○をする、といった工夫ができます。音を聞く際に視覚を制限するなどの工夫を行う事で聴覚に集中することができます。

 

例1 聞いた音をメモする

聞こえてきた音を紙に書いていく方法です。聞こえた音を擬音であったり記号など自由に表現しながらどのような音が聞こえたかを共有していきます。動物の鳴き声一つとってもそれぞれ聞こえてから表現するまでで個性が現れてきます。とくに正解のような物はありませんので、芸術的な活動として表現する楽しみを感じてもらいつつ、動物がなぜ鳴くのか?といった話につなげることができます。

 

お助けアイテム

聴覚の場合は、よく聞こえるようにするという方向にのみ工夫を行う事ができます。聞こえなくするでは聴覚が活かせないですからね。僕が自然観察会で行なったことがあるのは、聴診器のおもちゃのような物を利用する方法です。野生動物の何の音を聴診器で聞くかは・・・まだ思いついていませんが、選択肢としてとりあえずストックしています。



インタープリテーションの心構え

最後にインタープリテーションは参加者がいて初めて行う事ができます。その参加者がどのように受け取りやすい環境を作っていくか、実施者としての心構えが必要になっていきます。簡単に

服装

立ち位置

話し方

の方法論をざっとあげていきたいと思います。

 

服装

服装は当然清潔感のある格好が良いと思います。とあるネイチャーセンターではアメリカの国立公園のインタプリターのイメージでシャツにテンガロンハットのようなスタイルで実施しているというのを聞いたことがあります。雰囲気ってとても大切です。

 

動物園の飼育員であれば・・・とりあえず作業着になってしまいますが、ヨーロッパではジーンズで仕事をしていたり、作業着というのもあり得ますね。

 

どのような服装が参加者にとってすんなり受け入れることができて、いい印象を持ってもらえるのかはいろいろなパターンを試してみるのも良いかもしれません(職場が許してくれるのであれば・・・)。手軽なものでいえばベストなどが良いかもしれません。

 

立ち位置

これは野外での自然観察会などで言われていることですが、

  • 実施者は太陽に向かって立ち、参加者がまぶしい状況を作らない
  • 傾斜であれば実施者は低い位置に立つ
  • 風が強いときは参加者の目にゴミが入らないように風下に立つ
  • 伝えるときには参加者の気が散るような物が視界に入らないようにする

といったことがあります。

 

動物園であればどうしても動物舎の構造上、ガイドができる場所が限られている場合がありますが、できる限り上記のことを意識して場所を調整するのが良さそうです。

 

話し方

話し方としては

  • 相手が理解できる言葉を使う
  • 話す前に話す順番や要点を整理する
  • 相手の表情、しぐさ、態度を見ながら話す
  • 声の大きさや強弱、スピードを調整する

といった要素があります。

 

相手が理解できる言葉としては基本的に小学校5年生が理解できるような内容を伝えることで多くの方に理解してもらいやすい内容となります。

 

また、個人的には一番重要だと思うのですが、聞いてくれている参加者がすべて答えであり、つまらなさそうであれば準備していた話を入れ替えたり、ちがう話を入れたりするといった柔軟性やライブ感がとても大切だと思います。いつも話していることをそのまま話すのではなく、そのときの動物の動きを取り入れる、といった「その時間だからこそ」というのを意識したいものです。



おわりに

インタープリテーションはなかなか全体像を掴むのが難しく苦戦しております。

 

しかし、動物園で飼育員をしていたら動物のことを知る機会が山のようにあります。自分が経験したことや感じたこと、というのはとても貴重な情報です。そういった自分の心が動いたことはおそらく参加者や来園者の心にも届くのではないかと思います。

 

そのためにインタープリテーションという工夫に加え、自分の体験を自分の言葉で語ることでより伝わりやすくなるはずです。

 

インタープリテーションは、野生動物や動物園、飼育員として学ぶこととは大きくちがう分野かもしれませんが、勉強してみる価値がありますのでぜひ取り入れてみてください。

動物園で伝わるインタープリテーション

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本日は、「動物園で伝わるインタープリテーションを整理してみた」という内容で記していきます。

 

動物園の4つの役割の一つ「教育・環境教育」。

 

動物園という場所では、野生動物を来園者自らの目で見ることができます。「野生動物ってスゴイ!」ということや「かっこいい!」、「かわいい(かわいいに関しては考察する必要があると思っています)」といった感情が動く場面を何度も観てきました。

 

それは子どもだけではなく、大人も同様です。加えて、野生動物のことがとても好きな人もいれば、野生動物にそこまで興味が無く、レジャーの一環として動物園に楽しみに来ているという人もいます。

 

そういった幅広い方々の心を動かすことができるのは、動物園の一つの重要な強みとなります。知識ではなく、感情を動かすことが”感動”となり、心が動いたからこそ動き出すきっかけとなっていくはずです。



では、その動き出したあと行き着く先はどこでしょうか?

 

それは「人と野生動物が共に暮らせる未来」なのではないでしょうか。

 

残念なことに野生動物たちの現状は現在あまり良い方向に向かっているとは言えません。野生動物たちの生息域は年々減少し、絶滅危惧種に指定される動物は増え続けています。

 

動物園で飼育されている動物たちが野生動物の代表としてそういった現状を伝えていく。そして、飼育員は動物園の動物たちの力を借りて野生動物の現状が伝わるために試行錯誤をしていく。これからの動物園には必ず必要となる側面です。

 

「これは『伝わる』ために独学ではなく、しっかりと学ばなければ!」と考え、さまざまな本を読んだり、講習会に参加したりしてきました。

 

そこでたどり着いたスキルが

インタープリテーション

ファシリテーション

です。

 

この二つスキルが動物園で「教育・環境教育」で人に「伝わる」ためには必要だと考え、学びながら実際に試し、ふりかえりを行って改善しながらぼちぼちやってきました。

 

本日は、インタープリテーションに関して集めた情報をまとめていきたいと思います。



 

インタープリテーションとは?

 インタープリテーションを直訳すると「翻訳・通訳」となります。そして、環境教育の分野では「自然の翻訳」つまり、自然が持っているメッセージをわかりやすく伝えるスキルとなります。インタープリテーションはアメリカの国立公園が発祥で日本にもインタープリテーション協会という団体があり、普及啓発を行なっています。

 

一般社団法人 日本インタープリテーション協会 | Association for Interpretation Japan

 

また、日本では日本自然保護協会の自然観察指導員という民間資格があり、こちらも「自然の翻訳」に関して日本独自の発展を遂げています。

 

自然観察指導員 - 日本自然保護協会オフィシャルサイト

 

その他に、NEAL(自然体験活動指導者認定制度)や

 

NEAL | 全国体験活動指導者認定委員会 自然体験活動部会

 

RAC(川に学ぶ体験活動協議会)

 

川に学ぶ体験活動協議会

 

といった団体が行なっている活動もインタープリテーションの範ちゅうに入ってくるのではないかと思います。

 

それぞれ講習会を開催しています。僕もほぼすべての講習会に参加し、それぞれの考え方や手法などを学び、動物園での活動に活かしています。



インタープリテーションの考え方

 インタープリテーションの考え方の一つにチルデンの「インタープリテーションの6つの原則」というものがあり、

 

  1. インタープリテーションは、ビジターの個性や経験と関連付けて行わなければならない。 
  2. インタープリテーションは、単に知識や情報を伝達することではない。インタープリテーションは、啓発であり、知識や情報の伝達を基礎にしているが、両社はイコールではない。しかし、知識や情報の伝達を伴わないインタープリテーションはない。 
  3. インタープリテーションは素材が科学、歴史、建築、その他の何の分野のものであれ、いろいろな技能を組み合わせた総合技能である。技能であるからには人に教えることができる。 
  4. インタープリテーションの主眼は教えることではなく、興味を刺激し、啓発することである。    
  5. インタープリテーションは、事物事象の一部ではなく全体像を見せるようにするべきであり、相手の一部だけではなく、全人格に訴えるようにしなければならない。
  6. 12歳ぐらいまでの子どもに対するインタープリテーションは、大人を対象にしたものを薄めて易しくするのではなく、根本的に異なったアプローチをするべきである。最大の効果を上げるには、別のプログラムが必要である。

 

といった原則です。

 

個人的には、2番目と4番目は特に重要だと考えます。ただ単に情報の伝達だけであれば簡単です。そうではなく、もっと深い場所を感じてもらうためにはインタープリテーションのスキルが必要になっていきます。

 

そのために切り口の工夫や道具によるアシスト、といった技能としての引き出しが試されます。



インタープリテーションの考え方 その2

上記の原則は「伝える内容」に関するものになり、ここに加えて元キープ協会、現環境教育フォーラム理事長の川島直さんの書籍からもう少し高い視座から見たときの考え方として

 

In(自然の中で)

About(自然について)

For(しぜんのために)

 

というものがあります。「伝える内容」に加えて「場所」、そして「方向性」が関わってきて、そのバランスが大切、といった考え方です。

 

例えば、最初に室内で自然について簡単なお話(about)をするプレゼンテーションを行い、その後に実際の自然のある場所に移動(in)して参加者の相互理解を促す活動を行い、その後に自然を参加者に満喫してもらい「自然って大切だよね、自分たちにできることは何だろう?」(for)といったメッセージを伝える、といった具合です。

 

今の例は多少無理やり感がありますがイメージとしてはこのようなイメージです。

 

この3つの考えは相互作用し合うものであり、一つのイベントの中でこの3つのバランスを考えて実施することが重要となります。

 

また、一つのイベントに限定するのではなく、シリーズもののイベントとして行う場合は、1回目はinの活動をメインに、2回はaboutの活動をメインに・・・といった形でシリーズ全体としてのバランスを意識した組み立てが必要となっていきます。



誰が主役?のコミュニケーション

 インタープリテーションは伝える活動、つまりコミュニケーションの技法です。このコミュニケーションの選択肢を整理すると

実施者→参加者(一方向)

実施者⇔参加者(双方向)

実施者⇔参加者⇔参加者(全方向)

の3パターンがあります。

 

実施者→参加者(一方向)というのは、学校の授業スタイルが一番イメージしやすいですね。喋る人、聞く人に分かれる、と表現しても良いかもしれません。一方通行で情報の伝達を行なうコミュニケーションです。

 

続いて実施者⇔参加者(双方向)というのは、例えば実施者がクイズを参加者に出し、参加者が考えて答える、といったやりとりがあるコミュニケーションとなります。

 

最後に実施者⇔参加者⇔参加者(全方向)というのは、実施者から参加者に質問が飛び、参加者から参加者へ質問が飛び、参加者から実施者に質問が飛ぶ、といった形でその場にいる全員でコミュニケーションを取り合う形です。



インタープリテーションの基本は、実施者が参加者に向かって実施する一方向のコミュニケーションです。その中に双方向性のコミュニケーションや時には全方向のコミュニケーションを取り入れていくのが良いのではないかと思います。ここでもin、about、forの時と同様にバランスが大切になってくるとのではないでしょうか。

 

全方向のコミュニケーションに関しては、「ファシリテーション」が大きく関わってきますので、後日記事を記したいと思います。

 

また、一方向のコミュニケーションで陥りがちなのが、参加者を置いてけぼりにして、実施者が自分の喋りたいことを永遠と喋ってしまうパターンです。ここでしっかりと自覚したいのが「主役は参加者」ということ。参加者の方が自ら気づいたり、発見することを手助けしていくのが実施者が行なうインタープリテーションでなければなりません。自己満足のための時間にしてはいけません。

 

そのために参加者は今どう感じているのか?という部分に関してしっかりと観察して感じ取ってイベントを進めていきたいものです。

 

一方向が悪いというわけではないよ

最後にこれまた環境教育フォーラム理事長の川島直さんの書籍より

 

一方的に伝え双方向のやり取りのないインタープリテーションもある。それは決して「悪いインタープリテーションの代名詞」ということではない。一方向であっても「聴き惚れる、感動的なインタープリテーション」は確実にある。

 

ということもあります。一方向が悪、ということではなく確かな実力があったうえでのバランス、がインタープリテーションには必要不可欠になるのです。



おわりに

今回は、インタープリテーションの概要を記してみました。この記事を書きながら同時に学んだことや今までの経験のふりかえる時間となっています。

 

忘れていたなぁ、と思うことや、あぁしっかりとイベントの中で意識できていたなぁ、と思うこと死ぬほど恥ずかしいミスをしたなぁ~となかなか感慨深いものです。まだまだ勉強しなければならないし、より良くできるなと感じています。

 

イベントはその日、そのときだけしか出会わない一期一会の出会いになることが多いです。その一期一会のなかでどのようなことを感じてもらうか、考えてもらえるかは自分の手腕が試される恐ろしい時間であると同時にやりがいのある楽しい時間です。

 

最初は全くうまくいきません。そんなもんです。

 

でも大丈夫。本気で伝えたい気持ちさえあれば誰でもできるようになります。・・・といいたいところですが、僕もまだまだ十分ではなく反省ばかりの日々です。上手いことできていないへっぽこなやつでも挫けずがんばってるし、自分でもやってみるか、と思っていただけたら幸いです。頑張りましょう。

 

次回は、具体的にインタープリテーションを動物園でどのように使っていけるかを僕の経験を踏まえながら考察していきたいと思います。

教育と学習の違いを因数分解しながら動物園でどうするか調べながら考えてみた

本日は、「教育と学習の違いを因数分解しながら考えてみたら僕はやっぱり学習したい」といった内容を記していきます。

 

正直このあたりのことは、現在進行形で勉強中でございます。確信など全くありません。

 

ただ一つ言えることは、楽しくないと「自然は大切」や「動物の将来が心配」っといったことを気づいてもらうことはできないんだろうなぁ~と漠然と考えていて、ではどうやればその気づくお手伝いができるのかな?と日夜お勉強に精を出しています。

 

その中で一つ概念的に捉えるべき「教育と学習の違い」についての整理にチャレンジしていきたいと思います。チャレンジ案件です。

 

大学の専攻は・・・っというより、大学すら行ってない僕としては、まったく手がかりのない段階から、独学&独学で突き進んでまいりました。さて、どこまで行けるのか・・・とりあえず、いってみましょう!

 

 

教育と学習って違うよね

言葉遊びになってしまいそうで、少し恐ろしいのですが、それでも僕は言葉をとりあえず整理するところからいつも考えます。

 

言葉というのは意識しないで使うことが多いのです。しかし、言葉にはしっかりと意味があって、自分の中でその言葉の整理ができるということは、その言葉が意味する行動に対して思考を開始している証拠になると考えます。

 

今回は「教育と学習」を因数分解しながら整理です。

 

主体はどこに?

教育という言葉は「教え育む」という言葉で、学習は「習い学ぶ」という言葉です。英語で表すと教育はstudyで学習はlearnですね。

 

違いについて考えてみると、「主体がどこにあるか」が違っていそうです。

 

教育というのは、例えば学校の先生であったり、イベントの主催者が主体となっている言葉ですね。なんとなく高いところから低いところへ矢印が向かっていそうです。

 

では、学習ではどうでしょう?

 

主体は学習者である生徒や参加者ですね。自ら動いている形で学習者から教材であったり、その学ぶべき対象に矢印が向かっていそうです。

 

整理すると

教育は教育者→学習者(主体は教育者)

学習は学習者→教材(主体は学習者)

という仕組みになっています。

 

少し調べてみると

坪田 信貴さんが才能の正体」という本の中で

徹底的にアウトプットさせると、記憶が脳に定着します。ここでとても重要なことは「自分の口で説明している」ことです。

定着するまでには何度も聞いて、しつこいくらいやります。そこまでやらないと、記憶というのは定着しないからです。記憶が定着するまでにはその子の能力にならないので、そこは積極的に繰り返します。これが「マネジメント」です。

基本的に、新しい知識を「テスト」や「実践」で使えるようになるためには、次のような工程を経ます。

知らない(聞いたこともない)→知らない(聞いたことはある)→わかったつもり(調べて一度は知ったけれど)→わかった(口頭で、理屈も含めてアウトプットできる)→(その知識を使って)一部出来る→(その知識を使って)過不足なくできる。

この前半3つの工程は「教育」が必要で、そのあとは「マネジメント」が必要なのです。

引用:才能の正体 坪田 信貴 幻冬舎

 

こちらは完全に教育学の中の話でありますが、「マネジメント」という横文字が登場しました。マネジメントは組織づくりなどで使われることが多い言葉ですが、教育の分野でも登場です。

 

マネジメントという英単語をそのまま訳せば「管理」や「経営」ですね(ありがとうグーグル翻訳)。組織管理や組織運営を示す言葉ですので、そのまま教育に当てはめていくと教育管理や教室運営(?)ということになりそうです。

 

僕の中で整理していくと

最初は教育者が主体となって学習者に対して「教育」を行い、学習者がわかり始めた段階から主体が学習者となって取り組む、その取り組みを教育者がマネジメントしながら支援していく、ということになるのではないでしょうか。

 

このあたりが整理できてくると、最近よく聞く「アクティブラーニング」ということが何となくイメージできてきました。

 

アクティブラーニング

さて、次はアクティブラーニングについて調べていくと

 

教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。

学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。

発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である。

引用:文部科学省 用語集より

 

おぉう、「学習」ではなく、「学修」という言葉が使われています。再び漢字を整理してみると

学習は「習い学ぶ」

学修は「学び修める(身につける)こと」

 

サラ~っと見ていくと学習はその場での出来事で、学修は学び始めてから身につけるまでの流れのことのようで、学修(の中に学習)というイメージで良さそうです。

 

 

これを踏まえて整理していくと

最初は教育者が主体となって学習者に対して「教育」を行い、学習者がわかり始めた段階から主体が「学修者」となって学習に取り組む(アクティブラーニング)ようにし、その取り組みを教育者がマネジメントしながら支援していく、ということになるのではないでしょうか。

 

 

では動物園でどうする?

 ふぅ、なかなかしんどくなってきました。ムズカシイデスネ。

 

では、動物園で行う環境教育ではどのように考えていくかを開始です。

 

まず動物園の立ち位置から整理していきます。

 

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ざっくり生涯学習という考え方から整理を始めると、生涯学習の中には社会教育、学校教育、家庭教育という大きなくくり(これに加えて企業内教育というのもあるそうです)があり、基本的にはすべてに関わってきそうですが、動物園で行う教育活動は主に

社会教育

学校教育

としての役割がありそうです。

 

社会教育としては、動物園では随分と昔から取り組まれている「サマースクール」といった飼育員体験であったり、「自然観察会」であったりするイベントが該当します。

 

学校教育としては、学校との連携で行う授業ですね。

 

最近の動物園では教育活動専属の担当者を配置して対応するような動きも出ています。

 

僕はどちらかというと社会教育として自然観察会であったり、その他のイベントを行うことが多いので、動物園の社会教育的な役割を考えていきます。

 

動物園の社会教育

環境教育分野では以前から「体験学習」や「自然体験」といったいわゆるアクティブラーニングに取り組んでいました。アクティブラーニングって新しい概念だなぁと思っていた矢先、ん、どうやらずっと昔から知って実施していたことが実はアクティブラーニングだったんだ!と最近本を読んで気づきました。

 

動物園でいえば、野生動物という格好の教材をさまざまな方法で体験してもらうことができることが動物園の最大の強みとなります。そういった強みを飼育員体験であったりするイベントで主体的に学ぶ場をつくる、また動物観察に関しても主体的に取り組んでもらう工夫を行う、といった切り口を動物園では提供することができます。

 

ガイドはどちらかというと学校の一斉授業のような形です。メリットとしては、多くの人に一定のことを伝える、というのは得意ですが、デメリットとして、一人一人の理解に関しては手が出せません。

 

そこで、ガイドで多くの方に「広く浅く」、イベントで一人一人の理解を深めるような「深く狭く」といった役割分担が必要です。それぞれの特性を理解しながら両輪で進めていきましょう。

 

そのために僕が勉強しているのが

インタープリテーション

ファシリテーション

といったスキルです。

 

これらのスキルを使いながら、動物園としての社会教育を進め、ひいては動物園で暮らしている動物たちの仲間たちにどのようにポジティブな影響を与えていけるか?

 

少し壮大ですが、飼育員としての挑戦です。

 

おわりに

 いや~脳みそから煙が出ているのを感じます。あまり脳みその性能が良くないので負荷がかかるとすぐに煙が出てしまいます。

 

しかし!人と自然が共に暮らせる未来、つまり動物園の動物たちの仲間たちが豊かに暮らしている未来を作るために動物園としてどのようなことができるのか?この部分から逃げるわけにはいきません。脳みそから煙が出る程度のことは全く問題ないのです。

 

まだまだできるし、まだまだやらなければいけないことは山ほどあります。動物飼育で動物を幸せにしながら、環境教育で来園者の方々にどのようなことができ、環境保全活動で動物園の存在理由をより大きくできるか。挑戦はまだまだ続きます。

 

次回は、インタープリテーションについて記してみたいと思います。

 

動物園が行う環境教育の全体像

本日は「動物園の環境教育の全体像を整理するためにめっちゃググってなんとかした」という内容を記していきます。

 

動物園の一つの役割として、「教育・環境教育」があります。

 

正直に告白すると、私は学生時代は部活は好きで猛然とやっていましたが、勉強を全くやらない不真面目な学生でした。先生に対しても、「こいつ随分偉そうで生意気だな」と先生に思われていたのではなく私が思っている生意気な学生でした。そんな自分が教育の要素があるような仕事をするとは夢にも思っていませんでした。

 

飼育員は、動物たちと真剣に向き合い彼らを「幸せにする」と同時に、その飼育している動物たちから得た知見や経験を活かしながら自然環境について伝える「環境教育」に取り組むことができます。

 

この分野に関しても、自分の動物園でキッカケを提供してくれる先輩はいましたが、手取り足取り教えてくれる人はいませんでした。我流です。

 

いろいろな書籍を読破し、講習会に参加して知識を得て、自分で企画を立ち上げチャレンジして様々な経験をしてきました。正直まだまだ勉強不足だなぁ、と感じる日々ではございます。

 

が、とりあえずここまで集めてきた情報を点検する意味も込めて一つ一つ整理していきたいと思います。

 

まずは、

環境教育って何なの?

という概念的なテーマをお届けします。

 

 

 

 

環境教育って何なの?

環境教育というのは「地球や自然の資源の有限さや大切さに気づき、その保存と永続的な利用のために行動できる人を育てること」ということになります。

 

具体的には

自然環境(野生動物を含む)のこと知ってもらう

自然環境(野生動物を含む)のことを考えてもらう

自然環境(野生動物を含む)に対して自分ができることを行動する人を育む

 

簡潔にまとめると「知り、考え、行動する人を育む」のが環境教育です。

 

知り、という部分でガイドスキルやインタープリテーションスキルが

考え、という部分でファシリテーションスキルが

行動する、という部分で環境保全活動が とそれぞれの要素として入ってきます。

 

それぞれの要素は次回以降に記すとして、まずは全体像を把握していきましょう。

 

SDGsと ESDとEE

私がカラーバズ効果でよく耳にするだけかもしれませんが、SDGsという言葉をチラホラ耳にする機会が多くなりました。SDGsだけではなく、関係する用語としてはESDやEEという言葉もあります。

 

それぞれ

SDGs(持続可能な開発目標)

ESD(持続可能な開発のための教育)

EE(環境教育)

という意味です。

 

そしてそれぞれの関係を図で表してみると

 

 

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といった整理となります。少し複雑ですし、明確な整理ができない部分もあります。

 

個人的には、以前のお話しした目的と目標の考えで整理して、「目的であるSDGsのために、ESDという目標を、EEという方法を使って達成していく」という風に把握しています。

 

ではそれぞれを見ていきましょう。

 

SDGs(持続可能な開発目標)

SDGsとは、持続可能な開発目標です。これは地球環境を維持していくために、資源を消費し尽くすのではなく、持続的な形で利用していくことを目的としています。SDGsという目的を達成するための目標が17個あり

 

17の持続可能な開発目標

目標1. あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
目標2. 飢餓を終わらせ、食糧安全保障および栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
目標3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
目標4. すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し生涯学習の機会を促進する
目標5. ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う
目標6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
目標7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
目標8. 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
目標9. 強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
目標10. 各国内および各国間の不平等を是正する
目標11. 包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する
目標12. 持続可能な生産消費形態を確保する
目標13. 気候変動及びその影響を軽減するためにの緊急対策を講じる
目標14. 持続可能な開発のために海洋・海洋資源保全し、持続可能な形で利用する
目標15. 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、並びに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
目標16. 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
目標17. 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

引用:国際連合広報センター

https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/sustainable_development_goals/

 

ということをすべて達成する未来をみんなで作り上げましょう、と国連が設定しているのがSDGsです。さらにこの17の目標は抽象的なので169のターゲット(具体的なスモールゴール)を設定し、230の指数によって評価します。

 

なかなか壮大でついていくのが大変ですね。まぁ、知識として把握しておけば大丈夫です。私の動物園の他の飼育員でこのあたりをまともに把握している人はほぼいませんからご安心を。

 

しかし、動物園ではどのような分野でどう関われるか、というのは把握していることで、これからの動物園の未来が多少変わっていくのではないかな、と思うので少しづつ勉強しています。

 

続いてESDについてです。

 

 

ESD(持続可能な開発のための教育)

考え方としてESDは、SDGsの17の目標(169のターゲット)の中に含まれる概念である、ということ整理でいいのではないでしょうかね。

 

さらにESDを因数分解してみると

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引用: 文部科学省

https://www.mext.go.jp/unesco/004/1339970.htm


といった要素をテーマしてESDを取り組み、それぞれに対して理解を深めることがSDGsに繋がる。そして、ESDを推進していく方法としてEE(環境教育)がある、という整理です。

 

環境学習や生物多様性、国際理解あたりのキーワードが動物園とは関わりがありそうですね。なかなか階層があって、複雑です。この記事を書きながらたくさんググりました笑

 

ここまでの概念を把握したうえで、ようやく冒頭に紹介した私たちが行う環境教育につながっていきます。マクロの視点でSDGSとESDを把握しながら、ミクロのEEに取り組む。そして、このEEもその施設や団体によって取り扱う内容が変わります。

 

 

動物園で行う環境教育

動物園は野生動物を見てもらう場所です。ですので当然、野生動物に関することを取り扱う環境教育を行います。

 

つまり、野生動物のことを中心に、野生動物が暮らす環境や現状といったテーマを「知り、考え、行動する人を育む」というのが動物園で行う環境教育です。

 

具体的には、

動物ガイドで野生動物の生態や現状を伝える

イベントで野生動物の生態や現状を伝える

イベントで身近な野生動物たちが暮らす環境を伝える

といったことに取り組むことになります。

 

また、これからの動物園として、

実際に野生動物たちの生息環境を守る環境保全活動を実施

動物園に来た人たちにも環境保全活動に参加してもらう

という視点や取り組みも必要となります。

 

動物園の中だけで完結するのではなく、実際に自然環境とつながるという試みです。動物園には世界中の動物たちがいます。その動物たちそれぞれに対して動物園として何ができるか、動物園はいま大きく変わらなければいけない時代に突入しています。

 

知の種類

再び概念的な話になってしまいますが、「知る」にも種類があるというお話をしておきます。

 

知には大きく

形式知

暗黙知

という2の種類があります。

 

形式知というのは、「言葉や文章、絵、数値などで表現が可能。他人にも伝達可能な知識」です。暗黙知というのは「具体的な形の表現にして他人に伝えることが難しく、他人に伝達が困難なもの」です。

  

この形式知による理解と暗黙知による理解の双方が動物園の環境教育の中では必要となります。

 

「知り、考え、行動する」と進んでいく原動力として形式知だけでは不十分です。「知動」という言葉はありません。「感動」というのは暗黙知の先にあります。自然や動物に対する畏敬の念(自然などを前にして慎み深い心持になること)といった感情が人の心を動かすことになります。

 

動物園の飼育員をしていると、「動物ってスゲー」と思う機会ってたくさんあるんですよね。それはつまり暗黙知です。「そんなことできるの?」とか「ウォー恐えー」みたいなことはたくさんあります。

 

そういった暗黙知として自然を、動物を捉えてもらうためにはどうすればいいのか?このあたりも私もまだまだ模索中ではございます。さて、どんな方法があるのでしょうかね?じっくり探していきたいと思います。

 

 

おわりに

 環境教育は個人的には非常に大切だと思いますし、やっていて楽しく好きな分野です。

 

動物飼育ばかり行っていると、どうしても動物園の内側にこもりがちになります。仕事も忙しく、環境教育になかなか手が出ない、時間が作れないということになりがちです。

 

しかし、動物園で動物たちを飼育するというのは何のためなのか?動物たちがいるからこそできることは何なのか?

といったこと考えていくと、一つの答えが動物園の「環境教育」につながっていくのではないでしょうか。

 

動物園にはまだまだ可能性があります。そういった可能性を探求するために日夜考え、チャレンジしていきたいと思います。

鳥を人の手で育てる技術②

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本日は「ようやく孵化した雛の成長を考える」というテーマで記します。

 

人工孵化・人工育雛ですが、いろいろと思い出していると、なんと言いますか辛い記憶が多いんですよ笑

 

当時、そこそこ担当動物を持ってゴリゴリ働きながら、それに加える形で人工孵化・人工育雛を一人で行なっていました。そんなもので激烈に忙しかったんですよ。体力もばっこり削られた上で、雛に神経を奪われる・・・しかも自分の動物園には人工孵化・人工育雛を教えてくれる先輩もいない・・・なかなか辛い戦いでした。記憶もおぼろげです。

 

だからこそ自分の力で、本気になって取組むしかありませんでした。

 

結果、非常に良い経験を得ることができました。これは何にも変えがたい宝物です。

 

さて、前回

 

鳥を人の手で育てる技術① - 動物園の飼育員になりたい君へ

 

ようやく雛が卵から孵った所まで行きました。

 

本日は、雛が孵化してから行なう部分について記していきます。

 

育雛環境

育雛方法

自力採食

 

大きくは上記の3点です。まずは雛を育てる育雛環境からです。

 

それではいってみましょうー

 

 

育雛環境

基本ベースは孵卵環境と同様の条件からのスタートです。そこから雛の様子を見ながら徐々に温度を調整していきます。湿度は50~60%をキープで大丈夫です。

 

育雛環境の要素は

温度調整

育雛器

雛の状態

になります。それぞれ見ていきましょう。

温度調整

当然、雛は成長して大きくなっていくので、体温を維持する能力が備わっていきます。そこで徐々に温度を下げていく必要があります。

 

環境の調整は、雛がすべての答えです。雛の様子、雛の体重変化、採食量、便の様子を総合的に考え、温度を徐々に下げて調整していきます。

 

もし、雛が「開口呼吸(嘴を開けてハァハァ呼吸)」が観察されたら暑い証拠なので温度を下げる、逆に「震え」が観察されたら寒い証拠なので温度を上げる、というのも把握しておきましょう。

 

しかし、今あげた2つの状態は雛の中で異常が発生しているからこそ観られる状態になります。ですので、これらのような様子が出ないのが理想的です。しっかりと雛を観察しましょう。

 

育雛器

雛を育てる専用の機械として育雛器というものがあります。人間の保育器のようなものですね。基本的には孵卵の時に使用した孵卵器とは別で用意ができる方が雛のためでもありますし、管理も容易になります。

 

育雛器がない場合、孵卵器でそのまま育てる形になりますが、昭和フランキはプロペラで温風を循環させて孵卵器内の温度を一定に保つシステムです。その温風が直接雛に当たってしまうと、ドライヤーで乾かし続けている状態になってしまいます。そこで温風が直接当たらないように「風受け」を設置するか、雛を入れるカップに簡易的な屋根をつけるなどの工夫が必要となります。

 

雛の状態

続いて、実際に雛の状態を詳しく見ていくポイントです。

 

雛の元気度は見ていれば容易に把握することができます。お腹が空いてピーピー鳴きながら、ウネウネ動いていれば元気です。「いつもの」様子を把握して、変化がないかしっかりと観察しましょう。

 

また、雛の内側の変化を確認する為に嘴の中に注目です。嘴の中が粘ついていると、それは水分が足りなく脱水状態を表している証拠となります。嘴の中以外には、雛の皮膚を引っ張ってピンと戻るのではなく、じわーっと戻っていくのも脱水状態である証拠となります。

 

脱水状態の改善に関しては事項の【水分】で記します。

 

その他に便の様子はどうだ?コロンとした便をしているか?水っぽいか?などを見ながら給餌している餌を調整していきましょう。

 

あと体重の変化で、一喜一憂をするのはやめましょう。理想的には順調に増加していくのが安心できますが、急ぐ必要はありません。停滞、または多少の減少というのも時には起こります。心配になって無理やり餌を食べさせるのではなく、雛の要求を見ながら決定していきましょう。

 

雛に元気がなくなってしまうのは必ず、飼育員の行っている仕事の中に原因があります。一度すべての手順、環境、質、量などをすべて点検し、原因を考えていきます。



育雛方

続いて、実際に雛を育てていく方法に移りましょう。

 

考えて実践していくのは

餌内容の決定

水分

その他の健康管理

の3つになります。それぞれ見ていきましょう。

 

餌内容の決定

餌はその種によって変わります。どんな雛でも小さな虫をあげれば良いというものではありません。

 

その種の親が野生環境で雛にどのようなものを与えるか、が基本的な考えのスタートになります。その種は肉食なのか雑食なのか植物食なのか?親と雛はちがうモノを食べるのか、同じものを食べるのか?

 

それらを参考にした上で、手に入れやすく管理のしやすい雛用の餌を選定する必要があります。

 

私がスズメなどの小鳥の雛を育てていたときに使用していたものの一例として

Qチャン(九官鳥用の餌)

ミールワーム

コオロギ(幼虫)

 

イレギュラーな種としてハトの雛を育てたときは

エグザクト(インコ用の餌)

 

といったモノを使用していました。

 

ハトは面白いんですよ。雛にピジョンミルク(ミルクと言っているが哺乳類のミルクとは大きくちがう)と呼ばれるソノウと呼ばれる器官から分泌する分泌物を雛に与えます。フラミンゴもフラミンゴミルクで雛を育てますね。

 

ハトの人工育雛を行なったときは、このエグザクトにたどり着くまで、全く上手くいきませんでした。全然自力でたどり着いたわけではなく、悩みに悩んで近縁種のハトの人工孵化・人工育雛を行なっている動物園に連絡をしてこのエグザクトの存在を教えてもらいました。ドキドキしながら電話したのを覚えています。それはもう親切、丁寧に教えていただきました。

 

その後、動物園の全国技術者研究会で教えてくれた方に直接お会いすることができて感動しながら直接お礼を言えたのは良い思い出です。



豆知識 ガッドローティング

雛に与える生き餌をアップグレードする方法があります。ミールワームのような虫の生き餌を与える際に、生き餌自体に栄養価の高い餌を食べさせ、生き餌自体の栄養価を高める方法です。

 

また、簡易的には生き餌にサプリメントをまぶして雛に採食させる方法もあります。こちらはロスする分があるので、極力ガッドローティングで確実に採食させていきたいモノです。

水分

水分の取り扱いも種によって変わりますが、選択肢としては

水道水を与える

経口補水液を与える(水分の吸収率を上げる)

といった選択肢になります。

 

前項の【雛の状態】で、脱水状態の兆候が見られたら、意図的に水分を補給していきます。

 

いつも与えている餌が水でふやかすタイプであれば、成長と同時に餌の水分量を徐々に減らしていく場合がありますが、少し前のステージの水分量に戻すなどの方法を考えます。

 

また、猛禽類やフクロウ類などに肉を給餌するときに、水分にワンバウンドしてから水分が付いた肉を給餌する方法もあります。

 

豆知識 水分から栄養を与える

またまたハトの話になりますが、少し高度な選択としてエグザクト自体は粉状で、水で割って雛に与えます。それを水ではなく豆乳で割って栄養価を高めるという選択があります。

 

エグザクトを教えてもらい、何とかかんとか成長はしていくのですが、なかなか成長率が上がらない悩みを持っていました。これまたエグザクトの存在を教えてくれた動物園の方から豆乳を使う方法を教えてもらいました。

 

水を豆乳に変えるといった発想は本当に驚きました。コペルニクス的転換です。植物質であり、栄養価が高いモノはどんなものがあるか?そして、雛の成長に適しているのはどのようなものがあるのか?考えて調べ尽くした結論だと思います。

 

そのときあわせて聞いたのが無調整豆乳より、調製豆乳がいいそうです。無調整だとソノウで食滞を起こしてしまったようで、このあたりは経験を積みながら多様な選択肢と確実な技術を確立して行きたいものです。

 

この水分の栄養価を高める、という選択肢は雛だけではなく、衰弱した動物の管理をする場合にも応用(サル類で栄養失調になった→餌+水ではなく餌+リンゴ果汁100%ジュースを与えるなど)できます。

 

このように水分を与えるということ一つをとらえても、突き詰めていくことができます。雛が摂取するモノは人の手から与えるモノがすべてです。すべての行いに対してそれぞれ考え、最善の方法を選択しましょう。

   

その他 健康管理

その他に、ずっと育雛器の中で飼育しているのではなく、ある程度大きくなって羽根が生えてきたら日光浴を行ないましょう。日光浴を行う事で、骨の形成に必要なビタミン生成を促すことに繋がります。ビタミン生成が行えないことでクル病(骨形成に異常)になってしまう場合があります。

 

日光浴の必要性は、種によって変わりますし、実際必要か?と思うかもしれません。確かに必要性はそこまでないのかもしれませんが、外の空気を吸って、木陰で過ごすのは雛にとって環境変化のストレスはあるかもしれませんが、それ以上にいいことなのではないかと思います。

 

これまた、エグザクトを教えてくれた動物園の方からハトの雛の餌の中にチンゲン菜の絞り汁を入れる事で骨形成が正常になる、というのも聞いたことがあります。ほんとうに足を向けて寝ることができません。何から何まで包み隠さず教えてくださりありがとうございます。このあたりは、実際に行うことができなかったので、これからできる機会に恵まれたら取り入れてみたいと思います。もっともっと勉強します!
 

自力採食

雛が成長して、最後のステージには、置き餌を設置し、雛自ら採食するのを促します。これが最後の関門です。

 

スズメなどの小鳥類では成鳥と同じ餌を準備して、ミールワームなどの生き餌を入れて注意を引き、突っついて遊んでいる間に大人用の餌を自力で食べ始めるのを待ったりします。個体によって自力採食に時間がかかることもありますので急がず焦らずじっくり行きましょう。

 

複数羽を同時に育雛していた場合は、どの個体かが自力採食を始めたらそれを見て他の雛も学習し、自力採食を始めたりもします。それを意図的に再現するために、自力採食するヒヨコを手に入れて、先生として一緒に飼育するのも一つの選択です。一応雛とヒヨコでケンカが起こらないかどうかはしっかりと確かめましょう。

 

自力採食で自分の体重を維持できているかどうかを体重測定で確認し、自力採食で体重維持ができるようになったら人工育雛は卒業です。

 

巣立ち

巣立ちはある日突然やってきます。ハトの雛を育てていたとき、いつものように朝の給餌を行なおうとしたときに、いつもと様子が違います。いきなりよそよそしくなり、人を拒絶するようにバタバタしていました。うれしいような、悲しいような・・・最後はあっけないものです。

 

野生動物は、最終的に人に完全に馴れることがありません。どこかでスイッチが入ります。自力採食をして、人を拒絶するところまで行けば、人工孵化・人工育雛としての飼育員の仕事は本当に終わりです。おつかれさまでした。



おわりに

今回、自分の中に今ある人工ふ化・人工育雛に関する情報をすべて出しました。出したつもりではあるのですが、おそらく実際に人工孵化育雛を行ない始めれば、今回記したこと以外のことも思い出して出てきそうな気がします。人間の記憶というのはあやふやですからね。

 

実際に取組んでいたときは本当に色々と必死になって勉強したものです。英語なんてこれっぽっちも読めないくせに、英語の論文に果敢に挑戦し、学生時代に使用していた辞書を引っ張り出して翻訳を始めたけどすぐに挫折して図を見て満足する、といったお粗末なものでしたがね。いまなら、グーグル翻訳であらすじぐらいは簡単に把握できるのでいい時代になりました。

 

学生時代は大人になったらこのつまらない勉強ともおさらばだと思っていたのですが、どっこい、今の方が学生時代よりはるかに勉強しています。ただ自分の学びたいことを選んで本気で取り組めるので、楽しいんですけどね。

 

さて、しばらく動物飼育のことばかり書いていたのですが、次回以降は動物飼育に関しては一旦お休みをして、環境教育やその他の分野で飼育員として知っておくべき、学ぶべきことに関して記していきたいと思います。

 

鳥を人の手で育てる技術①

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本日は「鳥類の人口孵化・人工育雛について知っていることを全部吐き出してみた」という内容について記します。

 

以前の記事で自然繁殖の苦労や工夫について書いてみましたが、今回は人工孵化・人工育雛について書いていきます!なかなか奥が深い分野です!

 

正直、人工孵化・人工育雛を経験することは、とんでもなくオススメなんですね!なぜかというと、飼育員として「命に対して向き合う姿勢」が大幅に変わるからです。もちろんポジティブな方向に、です。

 

というのも人工孵化・人工育雛というのは本当に技術勝負の世界です。運の要素がほとんどありません。雛の命を直接飼育員が背負うのが人工孵化・人工育雛。個人的な見解ですが、飼育員として人工孵化・人工育雛以上に本気で学び、あれこれ考え、試行錯誤して真剣に取組む仕事は他にないのではないかと思っています。

 

人工孵化・人工育雛の基本から実践まで私の知っている限りの情報をご紹介します。

 

 

まずは親鳥のペアリングと採卵

まずは、卵を確保するところからのスタートです。卵がなければ何も始まりません。

 

オス1メス1しか飼育していない場合、相性が悪かったら採卵することができません。何とかペアになってもらうための努力が必要です。

 

欲を言えば複数個体がいる状態で、それぞれの組み合わせの相性をみてペアリングを決定していきたいものです。もっと欲を言えば、血統管理をして遺伝的多様性を確保したうえで相性のいいペアを獲得することが理想的です。

 

現実と照らし合わせながらチャレンジしていきましょう。

 

相性の良し悪しは、動物のことをよく観察し、個体同士でコミュニケーションを取るのか、距離感は近いのか、といった部分に注目です。

 

上手いことペアリングを行う事ができ、有精卵(受精して発生する卵)を獲得することができるようになってから、人工孵化・人工育雛のスタートです。

 

孵卵器の準備

孵卵器はどの孵卵器を使っているかによって変わっていくと思うので、私の動物園にあった孵卵器ベースで解説していきます。使用していた孵卵器のメーカーは昭和フランキでした。

 

株式会社昭和フランキ

 

孵卵器の中は当然、清潔にします。可能な限り清潔にすることで、孵卵に関わる失敗要素を潰すことになるんですね。どこまでやれば良いかは、個人の感覚かもしれませんが、水拭き、アルコール消毒は行なっていました。正直、卵の免疫力もありますし、そこまで過敏になる必要はなく、滅菌室のような状態を目指す必要もありません。が、汚いことにメリットはありませんので、常識の範囲内で清潔にしましょう。

 

温度は、孵卵器に付いている温度計に加えて、市販の温度計を孵卵器内に入れてモニタリングしていました。正直、どの温度計の、どの数字が正しいのか迷ってしまいます。どれか一つの温度を基準にする、と決めて行なうのが良さそうです。

 

湿度は孵卵器の最下段に水バットを設置するのですが、この水の表面積の大きさで湿度が変わっていきます。湿度を下げたい場合は表面積を小さくします。バットを小さくする、バットに小さなプラスチックの板を浮かべ表面積を減らすなどで対応しましょう。湿度を上げたい場合はバットを大きくする、バット以外に水を入れることができる容器を追加する、などで対応します。

 

季節によって外気の湿度が上下し、孵卵器内の湿度が調整できない場合もあります。そのため孵卵器を設置する空間にはエアコンがあって環境を一定にできるのが理想的です。エアコンなんてない!という場合は、ある程度工夫をしてがんばってどうしようもなければあきらめましょう。というのは残念なので、除湿剤などの選択肢も考えて良いかもしれません(使ったことはないですが)。

 

何でもかんでも道具が揃っていないとできないではなく、どうすればコストをかけずに実現できるか、という部分に知恵を振り絞りましょう。

 

孵卵器には、湿度を調節する用の調節窓という小さな穴に可動式のフタが付いている部分があります。調節窓は酸素を補給する関係で極力全開にしていました。あまり気にすることではないかもしれませんが空気の循環は積極的に行なう方が卵にはいいのではないかと考えます。

 

卵を入れる前に試運転をして温度・湿度のモニタリングをします。環境が安定するまで1~2日かかります。事前にしっかりと準備しましょう。

 

第3世代孵卵器

孵卵器も進化しているようです。昭和フランキは、温風で孵卵器内に風を回し、孵卵器内が均一な温度になるような仕組みでした。今から10年以上前でしょうかね、飼育技術学会という集まりに参加したときに「第3世代の孵卵器」があると聞き、構造的には温風が風船?のような袋に流れ、その風船?のような袋と卵が点で接地する構造だったと記憶しています。

 

点で接地するという考えは、親鳥に抱卵されているときはお腹の一点で接地し、卵の下の部分は温まらない、ということからこういった構造に行き着いたのではないかと推測されます。親鳥が抱卵する環境を再現することで、孵卵環境が向上し孵化率が上がるという発想ですね。本気で卵のことを考えている人はすごいですね。いまアメリAmazonで検索いてみたのですが、見つかりません。どうやらもっと専門的なHPにいかないと見つけることができそうにありません。

 

当時。聞いた値段で40~50万円と高価で、海外製だったので輸入する必要がある、と記憶しています。お目にかかったことはないのですが、いつか使ってみたいものですね。

 

孵卵環境

孵卵環境により、卵の成長速度が変わり、孵化率が変化していきます。ここで大幅に間違えてしまうと孵化率が低下してしまい、人工育雛までたどり着くことができません。

 

調整する要素は
温度
湿度
転卵
換気(放冷)
の4つの要素です。一つ一つ見ていきましょう。

 

温度

温度は、卵の発生スピードを決める条件となります。温度が高ければ発生が早まり、低ければ発生が遅くなります。適正値の範囲を外れると孵化率を落とす原因となりますので慎重に決定していきましょう。

 

種により適正な温度がちがい、ペンギン35.8℃、コンドル36.7℃、水鳥36.9℃、オウム37.2~37.3℃、スズメ目など小型鳥類37.8~38.1℃といった情報や過去の研究結果、近縁種の結果などを調べ、自分が取り扱う卵の最適な温度を探していきましょう。

 

情報が手に入らなく、まったく分からなければニワトリの孵卵温度で37.5℃を基準にして考えましょう。また、親鳥の体が大きければ温度は低め、体が小さければ温度は高め、というのも一つの目安かもしれません。孵化予定日は孵卵器に入れた日(親鳥が温め始めた日、または孵卵器で温め始めた日)からカウントを開始します。

 

湿 度

湿度は卵重の減少に関わる要素です。卵は、産卵されてから孵化するまでの間に呼吸をして軽くなっていきます。この卵重の減少するスピードをコントロールすることで孵化率が上がります。湿度が高ければ卵中減少が少なくなり、湿度が低ければ卵重減少が多くなります。

 

卵重をコントロールする際には、種によって適正な「卵重減少率(産卵日の卵重から孵化日までに減少する卵重の割合)」があり、孵化までにどのぐらい軽くなるのかを湿度をコントロールすることで再現していきます。適正値の範囲を外れると中止卵や死籠りとして、孵化に至る前に死亡してしまいます。

 

 湿度の一般的に設定は55~60%、卵重減少率は12~18%以内です。多くの種は15%を目指しておこないます。例えば、採卵時の卵重が100g、孵化予定日数が20日、卵重減少率を15%だとすると100gの15%は15g、孵化するときには85gになっていれば良いので、15gを20日で割ると一日に0.75g減少していく計算となります(あってるか?)。

 

相手は機械ではないので厳密に一日0.75g減らないと産まれないというわけではありませんが、卵重減少率はふ化率を上げる一つの要素になります。

 

 

転 卵

親鳥も抱卵中に卵をくちばしで回転させます。転卵させることで卵内で偏りが出て、発生不良が起こってしまのを防ぎます。

 

孵卵器での設定としては一時間に1回の設定が基本で、補足的に追加で一日2~3回、手で転卵を行うことで孵化率があがる場合もあるようです。

 

換 気

孵卵器の右側にある調節窓と日中に行う放冷で適度に換気を行ないます。卵は呼吸をしています。たくさんの卵をふ卵器に同時に入れる場合は換気の頻度を上げることが孵化率にいい影響を及ぼします。

 

また、標高の高い場所で人工孵化を行なった実験(?)で、孵卵器内に酸素を供給することで孵化率が上がった、という報告を聞いたことがあります。標高の高い場所で人工孵化を行なう機会は基本的にないとは思いますが、適正な酸素が孵化には必要だと言うことは頭の片隅に入れておきましょう。

 

換気のために孵卵器の扉を開けることは、「放冷」と呼ばれる熱を逃がす効果もあります。種にもよりますが親鳥も四六時中卵を抱いて温めているわけではありません。温度のメリハリを行う事が孵化率を上げる要素にもなるとの情報を聞いたことがあるので、参考にしてみてください。

 

孵卵中の取り組み

卵を温めている孵卵中には、基本的に大きな変化はありません。保守管理をしながらデータを採取していきます。


行う事は
記録(最低限の項目)
卵重測定
検卵
です。

 

記録

記録をとる目的は、孵化した、中止卵になった、死籠もりだったなどの結果がそれぞれ出ます。その結果に繋がったのはどのような要素なのか?というのを突き止めない限りは、孵化率を上げていくことはできません。

 

そこで記録を取っていき、どんどん改善していく必要があります。一つの条件が本当に卵の孵卵に最適かどうかやってみないと分かりません。ある程度、孵卵環境にバリエーションをつけて、記録を照らし合わせ最善の設定を探していきます。ただ何でもかんでも記録に残せば良いというものでもありません。

 

最低限必要な記録は
卵重測定

検卵

温度・湿度と調整したタイミング

といったところは記録し、次回以降の参考にしていきましょう。

 

卵重測定

卵重は採卵したときに1回目、それ以降は定期的に行ないましょう。卵重を計測することで卵中減少率を管理し、適切な範囲内に納めるためです。

 

孵卵器に入れている最中に卵重を測定する頻度は、毎日、数日おき、一日2回などのパターンが考えられます。さて、どのパターンが良いでしょうか?

 

気持ち的には、毎日測定していきたいところですが、個人的な感覚として、卵をべたべた触ることで、卵にとって良いことってどんなことがあるだろう?と考えます。

 

どちらかというと、あまりこねくり回さないでいく方が、卵にとって良いのかな、と思うので、卵重減少は2日に1回程度にして、その都度湿度を調整していました。

 

検卵

胚が発生しているか、中止して途中で止まっているか、を判断するために行ないます。方法としては、暗室で強力な光源に近づけ、卵の中を透かせます。発生していれば血管が見え、そこから発生が進行していくと卵の中がどんどん暗くなって雛の体が成長していることが確認できます。

 

検卵の目安としては孵卵期間(卵を温める期間)の1/7が経過した頃に1回目を行い、発生をしているかどうか確認します。胚の発生が途中で止まっている中止卵であれば孵卵器から取り除いて廃棄します。腐敗してガスを発生させ、正常に生育している他の卵に悪影響を及ぼしてしまうからです。

 

廃棄する中止卵は割って中がどのような状態かを一応確認し、次回に活かしましょう。

 

検卵も頻度は、毎日、数日おきなどのパターンが考えられます。卵重と同様に毎日毎日、べたべた卵を触ることは卵にとって良いことはあるのだろうか?と考え、1/7、2/7と検卵するタイミングを限定して行なっていました。

 

検卵時は写真撮影も行って起き記録を残しておきましょう。

 

孵化の準備

さて、なんとか順調に卵が成長して孵化日が近づいてきたら孵化の準備をぼちぼち行っていきましょう。

 

卵が複数個あり、孵化日がばらばらの場合は、卵を温める用の孵卵器と産まれてくる雛用の孵卵器をそれぞれ準備して、合計2台体制で行うるのが理想的です。なぜなら、孵化のタイミングで孵卵環境に少し手を加えて上げることで孵化率を上げることができるからです。

 

孵化直前の温度と湿度

温度は温めていた孵卵器と同じにする、または0.3~0.5℃下げると孵化率が上がることが確認されています。ただしこれは一部の種でのことなので、どのような種にも適応するかは分かりません。


湿度は70~80%の高い状態を作ります。孵化のタイミングで雛が卵を割っている途中に湿度が低いと殻の内側が乾燥して雛にくっついてしまいそこで力尽きてしまうからです。しかし、あまりにも湿度を上げ過ぎてしまってもあまり良いことはなさそうなので70~80%あたりを目指して環境を作ってみましょう。

 

孵化直前の換気

可能であれば換気用の調節窓は全開にした上で、上記の湿度を実現できるのが理想的です。季節によっては実現が難しい場合もありますので臨機応変に対処しましょう。

 

湿度を上げて卵を設置したら扉の開け閉めは最小限にして環境を安定させましょう。孵化するかどうか、と心配になって確認したくなりますが、落ち着いて!見たって結果は変わりません!自分が安心したいだけの行為です。基本的には雛の力を信じましょう。

 

孵化直前の受け皿

ハッチング(雛が殻を割り始める)が始まった段階で転卵は必要では無くなりますので、受け皿に移し孵化用の孵卵器に移動させていました。その卵の大きさによって受け皿は変わりますが、テッシュペーパー、キッチンタオル、ウッドチップ、新聞紙などをカップ状の皿にセットして、その中に卵を設置しましょう。

 

このとき一点注意がありまして、受け皿の形状が四角いと雛が大きくなってから元気よく餌をねだり、壁面にバンバンぶつかってしまうことで、皮下気腫(皮膚の下に空気がたまってしまう)などが起こる可能性があります。ですので、お椀型のカップがおすすめです。私の犯したミスと同じようなことは絶対にしないようにしましょう。

 

孵化の介助

ハッチングが始まり、一日二日と待っていても卵から出てこない場合があります。その際の選択肢は2つ。そのまま待つか獣医さんに相談して孵化の介助(卵を割ったり、めくったりする)を行なうか、です。

 

孵化の介助をした際に、早すぎれば卵黄が吸収される前に卵の外に出てしまうことになります。個人的にはあまりいじくり回さず、自然に任せる方がいいのではないかなと思っています。

 

おわりに

いや~、なんやかんやで雛が孵化した所までしかいけませんでした笑

 

孵化にたどり着くまでにも、いろいろとやることがあるんですね。正直、今回私が紹介した話は時代遅れになっている話かもしれません。最近、人工孵化・人工育雛を実施していなくて、最新情報をあまり積極的に集めていません。

 

しかし、実際に私が行なって時代の中では、確実に集めれるだけの情報はすべて集めて実施していました。

 

情報があるだけで救える命があります。勉強するだけ、ただそれだけです。簡単でしょ?

 

命を預かるのが飼育員の仕事です。勉強するのはあたり前で、その上でよりよくできるように脳みそから煙が出るぐらい考えて、体が悲鳴を上げるまで手を動かしましょう。

自然繁殖は大変だ!

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動物の繁殖に関して整理しました。

 

嬉しい、楽しい、けどしんどい動物繁殖 - 動物園の飼育員になりたい君へ

 

それぞれ、自然繁殖と人工孵化・人工育雛を少し深堀していきたいと思っていまして、本日は「自然繁殖の自分の経験を振り返り、大事だったなぁと思うことを整理してみた」という内容をお届けしたいと思います。

 

復習として自然繁殖とは、動物自らが仔育てをする繁殖です。そんなの当たり前じゃん、と思うかもしれませんが、動物園という環境ではどうしても育児放棄ということが起こってしまいます。

 

そうならないためにも、飼育員は事前にできる限りの心配要素を潰していき、動物たちが安心して繁殖行動に専念できるような環境を作るというアシストをしていきます。

 

仔が生まれてからは基本的に見守る以外の選択肢はありません。産まれる前にあらかたの勝負が決しているといっても過言ではありません。悔いの残らないようにできることはすべてやっていきましょう。

 

  

自然繁殖の準備

動物の繁殖といっても動物種によってアプローチは全然違います。

 

全く何も出産する雰囲気を出さずに、ある日突然仔を産んで、平然と仔を育てる種もいます(ほんとは準備していないとだめなのですが、妊娠がわからない種って本当にわからないんですよねぇ。ある日の朝、動物舎に行って「生まれてるやんけ」と驚いた経験が何度かあります笑)

 

そういった動物ばかりであれば楽ちんなのですが、神経質になる動物のほうが多いですね。飼育員としての腕が試される場面です。

 

そういった神経質な動物たちのために飼育スキルとして

動物たちの状態を作る

快適で安心できる環境を提供する

という部分を、考えていきたいと思います。

 

動物たちの状態を作る タヌキを例に

闘いは日常から始まっています。

 

常日頃から動物たちのことをしっかりを把握、管理することができていることが繁殖の必須条件です。必須といっておりますが、動物たちの繁殖に適した状態にはある程度の「幅」があって、意図せずその「幅」内に収まっていて問題なく繁殖するということもあります。

 

しかし、それは技術ではありません。

 

再現性のある技術として繁殖を取り組むために、一つ一つの自分の行動に意味を明確にし、思考を組み立てていきましょう。

 

動物の状態を作るというのは、飼育環境の精度を上げ、動物の体の状態と相性のいいペアリングの組み合わせを作っていくことになります。

 

体の状態

これまた動物種によって変わってくるのですが、本日は日本に生息している動物のタヌキを例に考えていきます。

 

日本には四季があり、動物たちはその時の環境(温度や日照時間)に合わせて暮らしています。夏になれば夏毛に、冬になれば冬毛に体を変化させていきますね。

 

その変化の一つに、体重があります。

 

寒い地方では特に顕著ですが、冬になると寒さと十分に食べ物を得ることがでいないことから脂肪を体に蓄え体重を増加させます。

 

おぼろげな記憶ですがニホンザルでは、実験室の一定の温度、湿度、日照時間という環境で一年中飼育していても、季節に合わせた体の変化があった、という報告を聞いたことがあります。体の中に、DNAに刻まれている変化なんですね。

 

そういった動物たちの身体の変化に飼育方法を合わせていく必要があります。

 

以前、タヌキの飼育担当をしていた時に、『なかなか妊娠しないなぁ~』と考えていました。ある日『ん、季節によって体の変化をできるように秋口にたくさん餌を与えてみようかな』と考え、実行してみました。

 

すると、秋口に食べるだけ食べて、体がまん丸になったタヌキは、冬には採食量が減り、活動量も低下しました。そして、春先に巣箱で出産をしたのです。動物たちの身体の変化に合わせた飼育を行うことで、繁殖の準備が整い、準備が整ったことで繁殖に至った、ということだと思います。

 

当たり前といってしまえばそうなのですが、動物たちに合わせる飼育、を行うことの重要性を再確認した出来事でした。

 

しかし、その出産はうまくいきませんでした。子育てができなかったんですね。ハラハラしながら見守っていたのですが、ある時から子供の泣き声が聞こえなくなり、最終的には親が仔を処理していました。

 

タヌキの繁殖の続きは「快適で安心できる環境を提供する」で記します。

 

ペアリング

個体の身体の状態が一つの要素として次は、繁殖相手とのペアリング(相性)です。

 

動物園では、たくさんの個体を飼育することは難しいです。スペースの問題もありますし、食費など予算的にも厳しいのが現実です。特に希少種は入手することら困難です。ホッキョクグマを10頭飼育(海外にはそんなダイナミックな動物園があるのかもしれません。)している園館って聞いたことないですよね?

 

ですので、相性がいいペアリングができるかどうかは、ある程度「運」の要素が入ってきます。当然ですよね、人間でも突然知らない人に「はーい、この人と結婚してくださーい」といわれても、無理な相手では無理ですよね。

 

 動物たちも当然同じで、ペアリングがうまくいかなければ繁殖に至りません。ですので、さまざまな動物園が協力してより多くのペアリングができるように連携してブリーディングローン(所有権はそのままに無償で動物を貸し出す)での動物移動を行っていたりします(最近ではゴリラなどで群れ飼育が繁殖のために重要だとして、拠点の園館に集める試みも行われて繁殖という結果にも繋がっています)。

 

タヌキに関しては自園である程度の個体数を確保することができましたので、オスとメスでとりあえず一緒に飼育してみて、仲がよさそうなペアの選定を行いました。

 

仲の良さそうなペアというのは抽象的ですので、具体的な行動として、なめ合う、一緒に丸くなって寝るといった、当たり前ですがそういった「いい感じ」な行動が確認されました。

 

動物種によっては相性が悪ければ血みどろの争いが起こる場合もありますが、運のいいことにタヌキでそのようなことはありませんでした。

 

 

さて、動物の状態を作り、仲のいいペアリングができました。しかし、それだけでは繁殖の成功に至りません。

 

続いて出産と子育てをしていく環境を考えていきたいと思います。

 

快適で安心できる環境を提供する タヌキで実際に

 【体の状態】のつづき

繁殖に失敗した時は、とんでもなくガッカリしました。しかし、ガッカリしていても前に進むことはできませんので状況を分析し、どのような部分がダメだったか考えていきました。

産箱

 巣箱に関しては、タヌキは使ってくれていました。巣箱の大きさに関しても問題なかったように思います。

 

ただし、巣箱は一つしかいれていなかったのでそれを選んだのか、それしかなかったから選ばざる負えなかったのか、はわかりませんでした。

 

人の影響 

この点が一番ダメだったのではないかと考えました。飼育している場所は展示場です。つまり人間(来園者)の影響が出てきます。もちろん一番影響を及ぼすのは飼育員です。

 

影響を低減するために、放飼場の一番奥に巣箱を設置、巣箱の壁を2重にして防音仕様にする、などを行いましたがダメでした。

 

ここは大きく舵を切って、来園者の見えないバックヤードでの繁殖に切り替えることにしました。

 

改善結果

タヌキの季節に合わせた状態のための飼育、繁殖に必要な静かな環境、この2点の変更を行い、再度繁殖にチャレンジしました。

 

その結果、無事に繁殖に成功!

 

親の様子を確認しながら、タイミングを見て仔の体重測定を行い、実際に見たタヌキの仔は信じられないくらい愛くるしいものでした。いろいろな動物の仔を見てきましたが、個人的にはタヌキの仔が今のところランキング1位です。

 

「タヌキの仔」の検索結果 - Yahoo!検索(画像)

 

成育途中に特段トラブルもなく無事に仔は育ち、無事にタヌキの繁殖を終えることができました。

 

 

おわりに

以前の記事で自然繁殖はできることが限定的と書いたのですが、限定的とはいえこういったことを2年3年と地道に取り組む のが飼育員の仕事です。

 

心残りといえば、是が非でも繁殖を成功させてあげたかったので来園者が見ることができないバックヤードで行ったこと。

 

やはり、動物園という場所は、動物たちの営みを見てもらって初めて存在できる場所です。本当は展示場で繁殖ができるのがベストだったのですが、自分の飼育技術の低さが原因でそれが実現できなかったと後悔が残っています。

 

今はもうタヌキの担当を外れてしまいましたが、いつの日か、放飼場で繁殖できる環境を再現できる技術を携え、再度チャレンジしてみたいな、と思っています。