飼育員になりたい君へ

動物園の飼育員になりたい君へ

とある動物園で飼育員をしています。いつの日か動物園で飼育員として働きたいと思っている人に向けて書きます。

動物園で伝えるインタープリテーション②

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本日は「インタープリテーションを動物園でどのように使うことができるかを考察してみた」といった内容を記していきます。

 

インタープリテーションって動物園で飼育員をしているだけでは出会うことがないワードです。僕が出会ったきっかけは、自然観察会を担当するようになってからでした。

 

最初は「この花の名前は・・・」とか「この鳥は○○って名前で・・・」のように主に種名と生態を紹介するようなイベントでした。そのために、得意でもない暗記にチャレンジするため図鑑を開いては頭を悩ませる日々です。

 

終いには「この木は○○って木で・・・」とやっていると、参加者から「じゃぁこの木は?」「これは?」「あれは?」・・・とクイズに僕一人で答えるような流れになってしまいました。当然すべてがわかるはずもなく「なんですかねぇ〜、自分で調べるのもたのしいですよー」なんて逃げてみたり。

 

「あれ、こんなことがやりたいんだっけ?ぜんぜん楽しくないぞ」と疑問に思ったもののどうしたら良いのか分かりませんでした。

 

これじゃダメだ!と藁を掴む思いでさまざまな講習会に参加するようになりました。自然観察指導員、プロジェクトワイルド、ネイチャーゲーム・・・そういった学びの場に赴く中で出会ったのがインタープリテーションとファシリテーションです。

 

基本的にはイベントで使う予定で学びを開始したのですが、ふと日常で行なっているガイドなどにも活用できることがたくさんあることに気がつきました。

 

動物園でどのようにインタープリテーションを活用していけるか、を実際に取組んだことを交えながら考察していきたいと思います。

 

 

 



動物園でのインタープリテーションのテーマ

もちろんテーマは野生動物です。その野生動物たちの何を伝えるのかというと

 

種名や生態

生態系での役割・繋がり

進化・適応

といったことを伝えていきます。

 

これらのことをただお話で伝えるだけではなく、参加者によりわかりやすく行なうために意識することがあります。それは参加者の五感に働きかけるということです。



インタープリテーションで五感を刺激

人間には刺激を受け取るために感覚器としての5感があります。視覚・触覚・嗅覚・聴覚・味覚です。味覚はなかなか難しいのでその他の4つの感覚をメインに考えて行きます。

 

視覚

人間はおよそ8割の情報を視覚から獲得します。動物園でも動物を観てもらう、というのは視覚情報ですね。この視覚情報をプレーンの状態から少し工夫を加えて学びを促していきます。

 

例1デッサン

たまに動物のことをデッサンするイベントを行なったりします。なんのためにデッサンをするのか?別にきれいなデッサンを描くためではありません。その対象を「よく観る」為にデッサンを行ないます。

 

デッサンを描くために情報を収集する時にこそ、漫然と観察するだけでは得ることができない情報を獲得することができます。参加者が自分で「見つける」ことができるのです。この自分で「見つける」というのが非常に大切となります。

 

実施者が参加者に対して「ここはこうなっているんですよ」と伝えるよりも、参加者が「ん?これなんだ?」と疑問を持った上で、実施者から「それは○○なんですよ」と伝えると「なるほどねぇ」にすんなり繋がっていきます。腹落ちするということですね。興味の種が参加者の中にあることで学びが深まっていきます。

 

例2サイレントガイド

デッサンをするには準備が・・・というときは、僕は「サイレントガイド」を行なったりします。スケッチブックに「この動物の○○(例えば前脚に、など)に注目!」と書き、参加者に自分で探してもらいます。この後はデッサンと同じ流れで大丈夫です。



上記二つの方法の本質は「参加者に主体的に取組んでもらう」という部分です。参加者の中で出てきた疑問を、参加者発信で実施者が「受け取り」話が進んでいきます。個人的な好みになってしまいますが、この「受け」ができるかが実施者の実力が試され、イベントの満足度に大きくかかわる部分だと思っています。どのような流れになっても大丈夫、と思えるために勉強したり、引き出しを増やしていくということを日々コツコツと行なっています。

 

視覚 お助けアイテム

視覚に関してさらに道具を使った工夫というのもあります。わかりやすいのは双眼鏡です。双眼鏡を使って参加者に動物のことを観察してもらうと、肉眼では発見できないようなことを見つけるてもらうことができます。双眼鏡は遠くを見ますが、逆に虫眼鏡で動物の派生物(羽根や角など)を観察してもらう、という方法もあります。お金があればフィールドスコープで30倍や40倍ズームの世界を観るのも面白いですね。

 

こういった一工夫を取り入れることで、動物観察に彩りが出てきて、より楽しんでもらいながら動物のことを伝えることができます。



触覚

触覚も取り入れ易い分野です。触って感じてもらうというのは非常に評判が良いです。何か触ってもらえる物はないか?と常に探しています。派生物が手に入ればすぐにでも実施することができ、それらをより魅力的に感じてもらう為の工夫を加えて学びを促していきます。

 

例1 箱の中身はなんだろな?

そうです。バラエティ番組などで古くから行なわれている方法です。袋でも良いですね。箱の中に派生物を入れる事で視覚情報が無くなり、触覚に集中することになります。ドキドキ感とわくわく感の絶妙なバランスがとてもいいです。

 

例2 目かくしタッチ

少し高度な技になりますが、参加者にアイマスクをしてもらい、その状態で派生物を触ってもらったり、歩いてもらう方法もあります。歩いてもらう場合はある程度リスクがあるので危険性を理解した上で実施しましょう。例えばその動物が湿地帯に暮らしているのであれば湿地帯を再現した踏み心地の場所を作り、参加者に歩いてもらうとその動物が暮らしている環境を疑似体験してもらうことができます。

 

例3 ゴム手袋

ゴム手袋を使って普段では触りたくないような物を触るのも面白いです。例えば動物の便を触る機会って一生の中でそうない機会じゃないですか?実際にやってみて、最初はいやがっていた参加者もある程度為たら馴れ始めて、ずんずん触っていきます。結構面白いと思いますね。



嗅覚

嗅覚も面白いですね。野生動物の体臭であったり、トリッキーな物として動物の便を使う方法もあります。匂いは結構当てるのが難しくなかなか盛り上がります。

 

例1 箱の中身はなんだろな?

触覚で使用することもできますし、嗅覚でも箱は使用可能です。僕が使ったことがあるものとして、草食獣用のペレットを箱の中に隠して、匂いを嗅いでもらったことがあります。草の匂いがするのを感じてもらいたかったのですが、以外と難しいようで結構苦戦していました。箱から出した後に実物を手に取り、再び匂いを嗅いでもらうとみんなで「確かに草の匂いだ」と納得してもらうことができます。



聴覚

聴覚は動物たちの鳴き声や自然音などを取り扱っていきます。音を聞く、だけではなく聞いてから○○をする、といった工夫ができます。音を聞く際に視覚を制限するなどの工夫を行う事で聴覚に集中することができます。

 

例1 聞いた音をメモする

聞こえてきた音を紙に書いていく方法です。聞こえた音を擬音であったり記号など自由に表現しながらどのような音が聞こえたかを共有していきます。動物の鳴き声一つとってもそれぞれ聞こえてから表現するまでで個性が現れてきます。とくに正解のような物はありませんので、芸術的な活動として表現する楽しみを感じてもらいつつ、動物がなぜ鳴くのか?といった話につなげることができます。

 

お助けアイテム

聴覚の場合は、よく聞こえるようにするという方向にのみ工夫を行う事ができます。聞こえなくするでは聴覚が活かせないですからね。僕が自然観察会で行なったことがあるのは、聴診器のおもちゃのような物を利用する方法です。野生動物の何の音を聴診器で聞くかは・・・まだ思いついていませんが、選択肢としてとりあえずストックしています。



インタープリテーションの心構え

最後にインタープリテーションは参加者がいて初めて行う事ができます。その参加者がどのように受け取りやすい環境を作っていくか、実施者としての心構えが必要になっていきます。簡単に

服装

立ち位置

話し方

の方法論をざっとあげていきたいと思います。

 

服装

服装は当然清潔感のある格好が良いと思います。とあるネイチャーセンターではアメリカの国立公園のインタプリターのイメージでシャツにテンガロンハットのようなスタイルで実施しているというのを聞いたことがあります。雰囲気ってとても大切です。

 

動物園の飼育員であれば・・・とりあえず作業着になってしまいますが、ヨーロッパではジーンズで仕事をしていたり、作業着というのもあり得ますね。

 

どのような服装が参加者にとってすんなり受け入れることができて、いい印象を持ってもらえるのかはいろいろなパターンを試してみるのも良いかもしれません(職場が許してくれるのであれば・・・)。手軽なものでいえばベストなどが良いかもしれません。

 

立ち位置

これは野外での自然観察会などで言われていることですが、

  • 実施者は太陽に向かって立ち、参加者がまぶしい状況を作らない
  • 傾斜であれば実施者は低い位置に立つ
  • 風が強いときは参加者の目にゴミが入らないように風下に立つ
  • 伝えるときには参加者の気が散るような物が視界に入らないようにする

といったことがあります。

 

動物園であればどうしても動物舎の構造上、ガイドができる場所が限られている場合がありますが、できる限り上記のことを意識して場所を調整するのが良さそうです。

 

話し方

話し方としては

  • 相手が理解できる言葉を使う
  • 話す前に話す順番や要点を整理する
  • 相手の表情、しぐさ、態度を見ながら話す
  • 声の大きさや強弱、スピードを調整する

といった要素があります。

 

相手が理解できる言葉としては基本的に小学校5年生が理解できるような内容を伝えることで多くの方に理解してもらいやすい内容となります。

 

また、個人的には一番重要だと思うのですが、聞いてくれている参加者がすべて答えであり、つまらなさそうであれば準備していた話を入れ替えたり、ちがう話を入れたりするといった柔軟性やライブ感がとても大切だと思います。いつも話していることをそのまま話すのではなく、そのときの動物の動きを取り入れる、といった「その時間だからこそ」というのを意識したいものです。



おわりに

インタープリテーションはなかなか全体像を掴むのが難しく苦戦しております。

 

しかし、動物園で飼育員をしていたら動物のことを知る機会が山のようにあります。自分が経験したことや感じたこと、というのはとても貴重な情報です。そういった自分の心が動いたことはおそらく参加者や来園者の心にも届くのではないかと思います。

 

そのためにインタープリテーションという工夫に加え、自分の体験を自分の言葉で語ることでより伝わりやすくなるはずです。

 

インタープリテーションは、野生動物や動物園、飼育員として学ぶこととは大きくちがう分野かもしれませんが、勉強してみる価値がありますのでぜひ取り入れてみてください。