飼育員になりたい君へ

動物園の飼育員になりたい君へ

とある動物園で飼育員をしています。いつの日か動物園で飼育員として働きたいと思っている人に向けて書きます。

動物園で伝わるインタープリテーション

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本日は、「動物園で伝わるインタープリテーションを整理してみた」という内容で記していきます。

 

動物園の4つの役割の一つ「教育・環境教育」。

 

動物園という場所では、野生動物を来園者自らの目で見ることができます。「野生動物ってスゴイ!」ということや「かっこいい!」、「かわいい(かわいいに関しては考察する必要があると思っています)」といった感情が動く場面を何度も観てきました。

 

それは子どもだけではなく、大人も同様です。加えて、野生動物のことがとても好きな人もいれば、野生動物にそこまで興味が無く、レジャーの一環として動物園に楽しみに来ているという人もいます。

 

そういった幅広い方々の心を動かすことができるのは、動物園の一つの重要な強みとなります。知識ではなく、感情を動かすことが”感動”となり、心が動いたからこそ動き出すきっかけとなっていくはずです。



では、その動き出したあと行き着く先はどこでしょうか?

 

それは「人と野生動物が共に暮らせる未来」なのではないでしょうか。

 

残念なことに野生動物たちの現状は現在あまり良い方向に向かっているとは言えません。野生動物たちの生息域は年々減少し、絶滅危惧種に指定される動物は増え続けています。

 

動物園で飼育されている動物たちが野生動物の代表としてそういった現状を伝えていく。そして、飼育員は動物園の動物たちの力を借りて野生動物の現状が伝わるために試行錯誤をしていく。これからの動物園には必ず必要となる側面です。

 

「これは『伝わる』ために独学ではなく、しっかりと学ばなければ!」と考え、さまざまな本を読んだり、講習会に参加したりしてきました。

 

そこでたどり着いたスキルが

インタープリテーション

ファシリテーション

です。

 

この二つスキルが動物園で「教育・環境教育」で人に「伝わる」ためには必要だと考え、学びながら実際に試し、ふりかえりを行って改善しながらぼちぼちやってきました。

 

本日は、インタープリテーションに関して集めた情報をまとめていきたいと思います。



 

インタープリテーションとは?

 インタープリテーションを直訳すると「翻訳・通訳」となります。そして、環境教育の分野では「自然の翻訳」つまり、自然が持っているメッセージをわかりやすく伝えるスキルとなります。インタープリテーションはアメリカの国立公園が発祥で日本にもインタープリテーション協会という団体があり、普及啓発を行なっています。

 

一般社団法人 日本インタープリテーション協会 | Association for Interpretation Japan

 

また、日本では日本自然保護協会の自然観察指導員という民間資格があり、こちらも「自然の翻訳」に関して日本独自の発展を遂げています。

 

自然観察指導員 - 日本自然保護協会オフィシャルサイト

 

その他に、NEAL(自然体験活動指導者認定制度)や

 

NEAL | 全国体験活動指導者認定委員会 自然体験活動部会

 

RAC(川に学ぶ体験活動協議会)

 

川に学ぶ体験活動協議会

 

といった団体が行なっている活動もインタープリテーションの範ちゅうに入ってくるのではないかと思います。

 

それぞれ講習会を開催しています。僕もほぼすべての講習会に参加し、それぞれの考え方や手法などを学び、動物園での活動に活かしています。



インタープリテーションの考え方

 インタープリテーションの考え方の一つにチルデンの「インタープリテーションの6つの原則」というものがあり、

 

  1. インタープリテーションは、ビジターの個性や経験と関連付けて行わなければならない。 
  2. インタープリテーションは、単に知識や情報を伝達することではない。インタープリテーションは、啓発であり、知識や情報の伝達を基礎にしているが、両社はイコールではない。しかし、知識や情報の伝達を伴わないインタープリテーションはない。 
  3. インタープリテーションは素材が科学、歴史、建築、その他の何の分野のものであれ、いろいろな技能を組み合わせた総合技能である。技能であるからには人に教えることができる。 
  4. インタープリテーションの主眼は教えることではなく、興味を刺激し、啓発することである。    
  5. インタープリテーションは、事物事象の一部ではなく全体像を見せるようにするべきであり、相手の一部だけではなく、全人格に訴えるようにしなければならない。
  6. 12歳ぐらいまでの子どもに対するインタープリテーションは、大人を対象にしたものを薄めて易しくするのではなく、根本的に異なったアプローチをするべきである。最大の効果を上げるには、別のプログラムが必要である。

 

といった原則です。

 

個人的には、2番目と4番目は特に重要だと考えます。ただ単に情報の伝達だけであれば簡単です。そうではなく、もっと深い場所を感じてもらうためにはインタープリテーションのスキルが必要になっていきます。

 

そのために切り口の工夫や道具によるアシスト、といった技能としての引き出しが試されます。



インタープリテーションの考え方 その2

上記の原則は「伝える内容」に関するものになり、ここに加えて元キープ協会、現環境教育フォーラム理事長の川島直さんの書籍からもう少し高い視座から見たときの考え方として

 

In(自然の中で)

About(自然について)

For(しぜんのために)

 

というものがあります。「伝える内容」に加えて「場所」、そして「方向性」が関わってきて、そのバランスが大切、といった考え方です。

 

例えば、最初に室内で自然について簡単なお話(about)をするプレゼンテーションを行い、その後に実際の自然のある場所に移動(in)して参加者の相互理解を促す活動を行い、その後に自然を参加者に満喫してもらい「自然って大切だよね、自分たちにできることは何だろう?」(for)といったメッセージを伝える、といった具合です。

 

今の例は多少無理やり感がありますがイメージとしてはこのようなイメージです。

 

この3つの考えは相互作用し合うものであり、一つのイベントの中でこの3つのバランスを考えて実施することが重要となります。

 

また、一つのイベントに限定するのではなく、シリーズもののイベントとして行う場合は、1回目はinの活動をメインに、2回はaboutの活動をメインに・・・といった形でシリーズ全体としてのバランスを意識した組み立てが必要となっていきます。



誰が主役?のコミュニケーション

 インタープリテーションは伝える活動、つまりコミュニケーションの技法です。このコミュニケーションの選択肢を整理すると

実施者→参加者(一方向)

実施者⇔参加者(双方向)

実施者⇔参加者⇔参加者(全方向)

の3パターンがあります。

 

実施者→参加者(一方向)というのは、学校の授業スタイルが一番イメージしやすいですね。喋る人、聞く人に分かれる、と表現しても良いかもしれません。一方通行で情報の伝達を行なうコミュニケーションです。

 

続いて実施者⇔参加者(双方向)というのは、例えば実施者がクイズを参加者に出し、参加者が考えて答える、といったやりとりがあるコミュニケーションとなります。

 

最後に実施者⇔参加者⇔参加者(全方向)というのは、実施者から参加者に質問が飛び、参加者から参加者へ質問が飛び、参加者から実施者に質問が飛ぶ、といった形でその場にいる全員でコミュニケーションを取り合う形です。



インタープリテーションの基本は、実施者が参加者に向かって実施する一方向のコミュニケーションです。その中に双方向性のコミュニケーションや時には全方向のコミュニケーションを取り入れていくのが良いのではないかと思います。ここでもin、about、forの時と同様にバランスが大切になってくるとのではないでしょうか。

 

全方向のコミュニケーションに関しては、「ファシリテーション」が大きく関わってきますので、後日記事を記したいと思います。

 

また、一方向のコミュニケーションで陥りがちなのが、参加者を置いてけぼりにして、実施者が自分の喋りたいことを永遠と喋ってしまうパターンです。ここでしっかりと自覚したいのが「主役は参加者」ということ。参加者の方が自ら気づいたり、発見することを手助けしていくのが実施者が行なうインタープリテーションでなければなりません。自己満足のための時間にしてはいけません。

 

そのために参加者は今どう感じているのか?という部分に関してしっかりと観察して感じ取ってイベントを進めていきたいものです。

 

一方向が悪いというわけではないよ

最後にこれまた環境教育フォーラム理事長の川島直さんの書籍より

 

一方的に伝え双方向のやり取りのないインタープリテーションもある。それは決して「悪いインタープリテーションの代名詞」ということではない。一方向であっても「聴き惚れる、感動的なインタープリテーション」は確実にある。

 

ということもあります。一方向が悪、ということではなく確かな実力があったうえでのバランス、がインタープリテーションには必要不可欠になるのです。



おわりに

今回は、インタープリテーションの概要を記してみました。この記事を書きながら同時に学んだことや今までの経験のふりかえる時間となっています。

 

忘れていたなぁ、と思うことや、あぁしっかりとイベントの中で意識できていたなぁ、と思うこと死ぬほど恥ずかしいミスをしたなぁ~となかなか感慨深いものです。まだまだ勉強しなければならないし、より良くできるなと感じています。

 

イベントはその日、そのときだけしか出会わない一期一会の出会いになることが多いです。その一期一会のなかでどのようなことを感じてもらうか、考えてもらえるかは自分の手腕が試される恐ろしい時間であると同時にやりがいのある楽しい時間です。

 

最初は全くうまくいきません。そんなもんです。

 

でも大丈夫。本気で伝えたい気持ちさえあれば誰でもできるようになります。・・・といいたいところですが、僕もまだまだ十分ではなく反省ばかりの日々です。上手いことできていないへっぽこなやつでも挫けずがんばってるし、自分でもやってみるか、と思っていただけたら幸いです。頑張りましょう。

 

次回は、具体的にインタープリテーションを動物園でどのように使っていけるかを僕の経験を踏まえながら考察していきたいと思います。