動物園でのガイドを真剣に考える
本日は、「動物園って楽しむ場所だけど、それだけではなく、動物のことを知ることができる場所だよね」っという話をします。
ちらっと聞いたことがあるのですが、アメリカの動物園では、キーパー(飼育員)、クリーナー(清掃員)、エデュケーター(教育係)と分業になっているそうです。
日本の動物園はどうでしょう?
近年は、役割分担が行なわれている動物園も多くなってきましたが、飼育員が兼任(キーパー・クリーナー・エデュケーター)しているケースも多いです。更に研究にも取り組んだりと・・・飼育員はなかなかやるべきことが多いのが現状です。
もちろん、分業になることでそれぞれの専門性が出て、良い面もあります。しかし、連携が難しい(キーパーは動物園にエンリッチメントとして段ボールをあげたいけど、クリーナーが掃除が大変になるから拒否する・・・笑)とのことで、すべてを一人で行なう日本の飼育員は、ある意味、自分やりたいことを好きなだけできる環境とも言えます。
その中で、本日はエデュケーター(教育係)としての飼育員の一面をご紹介します。
動物園の教育・環境教育
日本動物園水族館協会という組織があります。
そこは日本の動物園と水族館が任意で加盟している組織で、園館数は143園館にものぼります。総裁は秋篠宮皇嗣殿下という組織です。
ちなみに秋篠宮皇嗣殿下は「鶏と人」や「日本の家畜・家禽」「ナマズの博覧誌」など動物関連の書籍を多数出版されています。
その動物園水族館協会では、動物園には4つの役割があると定義しています。
1.種の保存
2.教育・環境教育
3.調査・研究
4.レクリエーション
この順番は日本動物園水族館協会のHPのままに掲載しました。
おそらくこの順番にも意図があるのではないかと思います。
これからの動物園の存在理由
動物園は長らく娯楽施設としての役割を果たしてきました。多くの動物園には遊園地が併設され、子どもたちが楽しむ場所としての意味合いが強かったのです。
しかし、社会も変わり娯楽の多様化や環境問題が取りざたされる昨今、動物園の存在理由がレクリエーション施設としてのみだけでは成り立たなくなっています。
もちろん、レクリエーション施設としての役割を果たしつつ、「種の保存」として環境保全活動を行ない、「教育・環境教育」として野生動物の現状を伝え、野生動物の保全につながることを「調査・研究」することで、動物園という場所がこれまで以上に重要な場所となれるように努めています。
動物園という場所は、動物が好きな人だけがくる場所ではありません。家族で、カップルで、旅行で、と様々な人が利用します。
そのような、特に野生動物に対して興味・関心が決して高くない層に対してアプローチすることができるのが、動物園の一つの特徴です。
これまで以上に動物園の動物たちを通して野生動物たちの現状を知ってもらい、考えてもらい、行動に繋げる為に「教育・環境教育」に動物園としてどのように取組んでいけるかどうか、が非常に重要な課題となります。
どのようなことをしているの?
動物園が行なっている「教育・環境教育」の一つに「ガイド」があります。
ここで一つ整理しておきたいことがあります。
「ショー」と「ガイド」はちがう活動です。
「ショー」とは、人に見せるための催し。「ガイド」とは、案内することです。
「ショー」の中で「ガイド」を行なうパターンもあります。
このあたりは、その動物園によって意識が変わってくるのですが、その動物の何を伝えるのか、何を見てもらいたいのかによって「ショー」なのか「ガイド」が変わってきます。
私個人としては意識的に「ガイド」を行なっています。つまり、動物のことを案内する。アメリカで行われているインタープリテーションという概念に近いイメージです(インタープリテーションに関しては後日記事にします)。
ですので、動物が本来持っている能力や社会行動といった「この動物のここがスゴいんだよ!」「ここおもしろくない!?」といったことをお伝えする、という部分とメインとして実施しています。
ガイドの内容
動物によって紹介する内容は変わりますが、主に
1.生態(その動物の暮らし)
2.形態(その動物の体の特徴)
3.進化(それぞれの環境で生きていくための能力)
4.野生下の現状
5.環境問題
6.私たちにできること
といったことをお伝えすることが多いです。
もちろん、ただただおしゃべりしているだけでは、足を止めてくれる人は多くはありません。
そこで、聞いてもらう、「伝わる」ための技術が必要になってきます。
表現方法を考える
ガイドを行なう際に私が意識しているのが、「対象」、「話法」、「視覚情報」、「ライブ感」です。
それぞれみていきましょう。
対象
ガイドをする際には必ず相手がいます。それが対象です。
その対象に合わせた方法を行なわなければ伝えたいことも伝わりません。
基本的には一般の方にお伝えする際は、小学校5年生以上が聞いて分かる内容にします。そこを基準にすることで、大人を含めた多くの方に分かってもらうことができるからです。
もちろん、幼児の団体相手であれば言葉を変換し、身近なものでたとえ話(ニホンザルのお尻には「しりだこ」っていうのがあって、これはおしりに座布団がくっついているみたいなものなんだよ、のように)を取り入れたりします。このあたりを柔軟に対応できるためにも準備と経験が必要ですね。たくさんガイドを行ないましょう。
話法
私もまだまだ勉強中ではありますが、冒頭は少し早口でお伝えし、一番伝えたい環境問題の部分は少しゆっくり話すなどの緩急を取り入れたりすることで伝わり方が変わります。
また、「間」というのも非常に大切です。大事なことをいう前に少し「間」を意図的に差し込んだりします。「なにか大切なことを言うぞ・・・」と相手に感じてもらうためです。
このあたりも実際に人の前に立ち、ガイドを行ないながら対象の反応を見ていくと、結果が変わっていきますので意識しましょう。
視覚情報
ガイドは基本的にお話をして相手に伝えますが、お話だけでは伝わりません。
環境教育の分野で有名な中国のことわざに一つ付け加えた
聞いたことは忘れる
見たことは覚える
やったことは分かる
発見したことはできる
という考えがあります。
聞いたことは忘れてしまうんですね。
それを前提として、では「伝わる」為にどのようなことができるのかをガイドを行なう私たちは真剣に考えなければなりません。
そこでKP法(紙芝居プレゼンテーション、後日記事にします)であったり、サイレントガイド(飼育員は喋らないで参加者にスケッチブックにお題「足に注目!」などを書いて、順番に参加者自身の目で発見してもらう方法)といった工夫が必要です。
また一つ整理しておきたいのが「伝える」と「伝わる」はちがいます。
「伝える」という言葉は行動です。
「伝わる」というのは結果です。
「伝える」のはごくごく簡単です。ただ喋っていればその目的は達成できます。
しかし、「伝わる」となると話は大きく変わります。自分事で考えてみれば分かりますが、他人の話を聞いて腹落ちすることなど多くありませんよね。
そのハードルを越えるためには必死になって考え、工夫する以外に道はないのです。
自分は「伝える」ために行なっているのか、「伝わる」ために行なっているのか、そのあたりをしっかりと考えてみましょう。
ライブ感
最後はライブ感です。
毎日のようにガイドをしていると、いつの間にか喋っていることが固定化されていきます。まるで録音した音声のようになってしまうのです。
もちろん毎日聞いている人は変わり、それでも別に問題はありません。しかし、それで本当に「伝わる」のでしょうか?
そこで私が大切にしているのが、動物の動きによって展開が変わっていくライブ感を活かしたガイドです。
動物があっちに行ったら「では、みんなであっちに行ってみませんか?」と聞き、「いこう」という声が聞こえたらそちらへみんなで移動する。
そして、そのとき動物が行なっている行動を紹介する、など臨機応変に内容を変えていくのです。
それはそのときその場所でしか体験することができない再現性のない内容。
そういった形で毎回、毎回を大切に目の前の人のために行う事が、私が思うに「伝わる」に繋がるのではないかと思います。
さいごに
一つ個人的にガイドに関して印象的な出来事を。
あれは夏だったと思うのですが、一生懸命に汗をかきながらガイドを行なっていました。その回には、最前線で最後までガイドを聞いてくれた小学校低学年ぐらいの女の子がいました。
その子は、ガイドが終わってから汗だくの私を見てハンカチを渡してくれました。
汗をだらだらかいている男を見て、かわいそうに思ってハンカチを渡してくれたのかもしれません。
しかし、私にとっては、話を最後まで聞いてくれた上に、ハンカチまで渡してくれた・・・小難しいことではなく、もっと漠然とした何かが伝わったのではないかと感じた瞬間でした。
親御さんに確認して、そのハンカチをありがたく受け取りました。
そのハンカチは今でも大切に保管しています。
一生懸命仕事をしていたら、必ず見ていてくれる人がいる。そう思えた出来事でした。
最初はなかなか上手くいかないことも多いかもしれません。
でも大丈夫。
動物と真剣に向き合い、本気でどうにかしたいと思い、工夫を重ねてコツコツ積み上げていけば「伝わる」ガイドを行う事ができるようになるはずです。
私もまだまだ、もっともっとできるように今日も考えながら前に進んでいきたいと思います。